  | 
										天国に届け! 
											「私のクイール」手紙大募集! | 
										  | 
									 
								 
							 | 
						
						
							
								
									
										| 優秀賞 | 
									 
									
										| わたしのクイール | 
									 
									
										| 大阪府枚方市 平瀬美和さん(45歳) | 
									 
								 
							 | 
						
						
							「えっキルト! どうしてここに?」 
									 本のモノクロ写真の中からこちらを見つめるクイールと同じ面差し、同じ表情、わき腹にある黒い模様まで同じ子犬と共に暮らした事がある。 
									
									 
									 ボランティアなんてとんでもない。できれば地域の役員だって避けたいと思っていた私がパピーウォーカーを引き受けたのには訳があった。 
									 
									 娘が学校に傷つき不登校をしていた時、助けてくれたのは縁もゆかりもないボランティアの青年達だった。彼らに献身的な無償の善意をたっぷり注がれ、宝石のような思い出いっぱいの不登校生活をすごした後、娘は元気に学校に戻った。彼らへの感謝の気持ちは、縁もゆかりもない誰かへの善意として届けるべきだと思ったのだった。 
									 
									
									「盲導犬になる犬だから、きっと大人しくて聞き分けがよくて……」などという私達の予想は大ハズレだった。やんちゃで甘えん坊のキルトの出現は、静かな大人社会になっていた我が家に嵐を巻き起こした。 
									 
									 所かまわずおしっこやウンチをする。お弁当、ぬいぐるみ、家具、靴、挙句は息子の受験の願書まで噛み散らかす。おまけに夜は一人で眠るのが寂しいのか一晩中クンクン、ワンワン鳴く。放っているとウンチをもらしてそれを体やケージに塗りこんでしまう。仕方ないので12時までは子供、深夜は私、明け方は夫とみんなで時間を分担して面倒をみた。冬の夜にこれはなかなか辛い。 
									 
									 しかし、もともと犬好きの長女はとにかくクールなタイプかと思っていた夫や息子まで皆夢中でキルトを可愛がった。理由は簡単だった。キルトが無条件で私達を愛してくれたからだ。疲れて帰宅した時、体中で「大好き」「愛してる」と表現してくれるキルトに迎えてもらうのはとても心地のよいものだった。家中みんなが自分でも気付いていなかった心のささくれ立った部分をキルトによって癒されているのをひしひしと感じていた。 
									 
									 実は娘が元気に学校に戻ってからも私はなかなか立ち直れなかった。負の感情という物は順風満帆の時は遠慮しているのに、くじけている時はつけ入るかのようにどっと押し寄せてくるらしい。学校との不毛な交渉、信頼していた人からの中傷などで、私はすっかり人間嫌いになっていた。しかし何があっても誰でも彼でも無心に愛するキルトに寄り添って暮らすうちに、心を閉ざして生きていくのがバカバカしくなってきたのだった。 
									 
									 こうして、ボランティアをしたのかされたのかわからないまま一年は瞬く間に過ぎ、キルトは多くの写真と思い出を残し私達の元を去って行った。もう会えないのがわかっているのに、私は未だに街で盲導犬を見かけると胸が熱くなり、わき腹に黒い模様を探してしまうのだった。 | 
						
						
							| ■入賞作品■
								
							 | 
						
						
							| ■選考を終えて■ 選考委員のコメントはこちらから |