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天国に届け!
「私のクイール」手紙大募集! |
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親子特別賞 |
天国に届けクイールへの手紙 |
東京都中野区 小川聡子さん・文(63歳)明子さん・絵(30歳) |
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クイール兄さん、こんにちは。ぼくのことおぼえてる? ぼくは末っ子のアンディー!!
兄さんが京都へ旅立ったあと、ぼくは四人姉妹の家族とくらすことになった。お父さんは病死していたので女ばかりの五人家族。だから、すぐにその家のお父さんのようにあつかわれた。
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明子さんの描いた絵 |
ぼくは家族やその友達の足音もすぐにききわけた。鳴いてはいけない、といわれていたけれど皆を守らなくては、と、ききなれない足音には大きな声で鳴いては「ダメヨ!」としかられた。兄さんがテレビや雑誌で紹介されるようになると「ほらほら、アンディー見てごらん、あなたのお兄さんよ」と嬉しそうに教えてくれた。ぼくはその度に鼻をくんくんさせ、、自慢のしっぽをふって身体いっぱいで「ぼくも嬉しいです」と伝えようとした。ぼくは兄さんのような仕事はできなかったけれど、一度だけ忘れられない素敵な思い出が残っている。子供達にはおばあさんがいて、ぼくのことをとてもかわいがってくれた。皆が学校へ行って留守の時など甘いクッキーを一緒に食べたり、テレビを見ているおばあさんのひざに頭をのせ、なでてもらいながら昼寝もした。
そのおばあさんが難しい病気にかかり入院した。もう手術も手遅れということで皆途方にくれていた。お母さんも子供達も毎日病院に通い、ぼくはちょっとさびしかった。だんだんに弱ってきて食事もとれなくなり、立って歩くことも困難になった。そんな時おばあさんが、「アンディーに会いたい」と皆の顔を見る度にうったえるようになった。外出は無理だし動物を病院に連れて入ることは禁止されているし、盲導犬の兄さんになりすますわけにはいかないし、でもおばあさんの希望はかなえたい……ダメ、と言われるにちがいない、と思いながらお医者さまにお願いした。先生は困った顔をしていらしたが決断は早かった。
「外来のない日曜日の午後、ロビーで会えるようにしましょう」
その日曜日は大変だった。朝から大嫌いな風呂に入れられ、つめを切られ、リードをひっぱらないようにと注意され病院に行った。久しぶりにガラス越しにみたおばあさんはやせていて、これがあのおばあさん? と一瞬たじろいだ。でも「アンディー」と小さいけれど懐かしい声が聞こえるとぼくは静かに、という注意を忘れて突進した。細い指で「アンディー、アンディー」となでてくれた。ぼくも思い切りからだをよせて「会えて嬉しいです」と伝えた。この日がこの世でおばあさんに会った最後の日になってしまった。
あれから十年がすぎて、今は兄さんもおばあさんもぼくも同じところにいるけれど広くてなかなか会えないね。ぼくも兄さんと同じように優しい思い出を残すことができたことは本当に良かったと思っているよ。
じゃあ、また会える日まで…… |
■入賞作品■
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