「盲導犬は、ただ道を教えてくれるだけと思っていましたが、でも違いました。
いっしょにいるだけで気持ちを明るくしてくれる。友だちなんですね」
1998年、12歳で亡くなった、ラブラドール・レトリーバーの盲導犬クイール。
そのクイールの一生を、まさに生まれた瞬間から死の間際まで写真におさめたフォトグラファーが秋元良平さんです。かつて写真集『盲導犬になったクイール』(あすなろ書房)でクイールが子犬から一人前の盲導犬になるまでの様子が紹介され、その愛らしくけなげな姿が話題になりました。本書『盲導犬クイールの一生』は、その後、使用者の病死によって盲導犬としての現役を離れたクイールが老後を迎え、やがて死に至るまでを優しいまなざしで捉えた、ノンフィクション絵本とも言うべき作品です。
|
育ての親、仁井さんのスナップから |
いままで盲導犬とその使用者の親密な関係を描いた手記は数多く出版され、ドラマなどでも知られていますが、この本には盲導犬が使用者とめぐりあうまで、その育成を支える人々の役割についてあまり知られていない事実が描かれているはずです。盲導犬には3人の親がいます。「生ませの親」「育ての親(パピーウォーカー)」「しつけの親(訓練士)」。その大切な役割を担った人々が、一匹の子犬クイールにいかに愛情を注ぎ、しつけ、教え育てていったか……その過程が写真と共に紹介され、心癒される一冊となっています。特に、クイールの育ての親だった仁井さん夫妻は、パートナーを失いデモンストレーション犬となってからのクイールをずっと見守り続け、体力の弱ってきたクイールを自宅にひきとって最期まで看取るのですが、引退した盲導犬がパピーウォーカーのもとに戻るというのは、大変まれなケースだそうです(通常は引退した盲導犬の世話をするボランティアのもとに引き取られることが多い)。
ペットの役割が現代人にとってますます重要性を増している昨今、盲導犬だけでなく介助犬やセラピードッグなど、人間の役に立つためという目的をもって生きる犬たちも数多くいます。その裏には犬たちの働きを助けるボランティアの人々の多数存在しているのです。ぜひ、この本で、そんな人々の寡黙な努力についても知っていただきたいと思っております。小学校中学年以上のお子さんも一人で読めるようルビを増やしましたので、総合学習の資料としてもおすすめです。