有川 浩×須藤真澄対談「おっさんLOVE」を語る
『三匹のおっさん』強力タッグ“有川 浩さん×須藤真澄さん”のお二方によるスペシャル対談。別冊文藝春秋(2009年3月号)に掲載された対談をWEB用に再構成しました。
第3回 いそうでいないシゲタイプ
――三匹の夜回り基地ともいえる「酔いどれ鯨」を営むシゲ(立花重雄)はキヨと並ぶ武闘派ですね。
有川
私はシゲタイプは好きでよく作品に書くんですけれども、実際に周囲にいるかというと……。
須藤
私のまわりにもシゲさんタイプのおっさんっていないので、描くときも手探りな感じがありました。
――第一話から第六話に至るまで、一貫して黒ジャージでしたね。
須藤
たまに袖をまくってみたりして季節感をだしました(笑)。編集さんにもこういう方はいないですよね。一見シゲさんぽくても実はキヨさん、みたいな人が多い気がします。
有川
確かに、この仕事のまわりにはいないタイプですね。打ち合わせでも「うじゃうじゃ理屈言ってるんじゃねぇ!」とか一喝されておしまい、みたいな(笑)。
須藤
締め切り破ったりしようもんなら、「なんで納期が守れねぇんだよ!」と叱られそうだ……。
有川
そして、乱丁・落丁も一切気にしない、と。
須藤
出版業界にたまたまいないわけじゃなくて、日本全体で減っているんでしょうか。
有川
一番、絶滅危惧種に近いのはシゲみたいなタイプなのかもしれないですね。漁師さんとかならいるのかな?
須藤
体育会系あがりのラーメン屋さん、とか。
有川
あ、そうそう! 食べ物屋のおやじっていうイメージは始めからくっついてきたんですよ。
――強いて結婚相手に選ぶならキヨさん、というお話がありましたが、シゲタイプはいかがですか?
須藤
お付き合いするならシゲさんがいいかもしれない。ハイキングに行ったり、爽やかな恋愛を(笑)。不器用そうなのがいいですよね。
有川
そうですね、私もシゲかな。というか、結婚相手でも恋人でもとにかくノリは回避しておけと私の本能が叫ぶので……。
須藤
あはは。確かにノリは別れるときもひと悶着ありそうだ。でもそんな消去法じゃなくても、第三話のシゲと奥さんのラブぶりはいいですよね!
有川
あの回の扉絵は、シゲが後姿っていうのがとにかく素晴らしかったです。それに画面手前に描かれた、がっちりセットされた髪型とか、眉をひそめてる犬や猫とかディテールも凄くて。
――祐希と早苗の二人が初めてイラストで登場したのもこの第三話の扉絵ですね。
須藤
最初に二人が出てきたときにはこの先どのくらい物語に比重を占めるかまだ分からなかったので、描かずにとっておいたんです。早苗ちゃんを描くにあたって有川さんに「どんな髪型ですか?」と伺ったら、結構前に私が漫画に描いたある女優さんの似顔絵を例に挙げられたのでびっくりした覚えがあります(笑)。
有川
須藤さんの漫画はほぼコンプリートしてますから!
須藤
そういえばシゲさんの子どもや孫は年代が合わないってことであんまり出てこなかったんですか?
有川
うーん、今回はたまたま出番が少なかったというめぐり合わせですね。シゲの息子の康生とかは実は書くのが楽しみなキャラクターでもあるんですよ。何が出てくるかは書いてみないと分からないんですけど。この辺の感覚は、自分でも宝探しみたいな感じです。
須藤
わーい。じゃあ次の機会には出るかもしれないんですね。
――シゲさんの息子夫婦のお話もぜひ読んでみたいですね! さて、次回はいよいよ有川さんの本能が危険信号を点滅させる男・ノリの登場です。