有川 浩×須藤真澄対談「おっさんLOVE」を語る
『三匹のおっさん』強力タッグ“有川 浩さん×須藤真澄さん”のお二方によるスペシャル対談。別冊文藝春秋(2009年3月号)に掲載された対談をWEB用に再構成しました。
第1回 『三匹のおっさん』誕生秘話
──さて、今日は『三匹のおっさん』単行本化を記念して、「酔いどれ鯨」にお集まりいただいて対談のはこびとなりました。
有川・須藤
ではでは、かんぱーい!
――まずは強力タッグの“なれそめ”など……。
有川
おっさんを主人公にして小説を書きたいな、と思ったときに“じーばーモノ”の金字塔として頭に浮かんだのが、須藤さんの『じーばーそだち』なんです。それで、「別冊文藝春秋」での連載開始時に「扉絵の希望は?」と聞かれてダメ元でもいいからお願いしてみたところ、なんとお引受けいただけて。ずっと須藤さんの漫画のファンだったので、とにかく嬉しかったです。
須藤
漫画誌で担当してくれている編集長が、依頼を取り次ぐ電話で「あんたが描かなきゃ仕方がないって感じのタイトルだぜ」と(笑)。『三匹のおっさん』という題でまず「いいね~!」と思って、それから原稿を送っていただいたらこれが面白くて面白くて。
有川
ありがとうございます!
須藤
私、自分でも図々しいと思うんですけど、映画でも何でも面白いものを見たり読んだりすると「なんでこれ作ったの私じゃないんだろう」って悔しくなっちゃうんです。
有川
あ、それ分かります。シンプルにただ「面白かった」と思うときと「悔しい」と思うときとありますよね。
須藤
そうそう。面白いけど自分の作りたい世界とは別物だと思うこともあるんですけど、『三匹のおっさん』はその世界がかぶっていたみたいなんです。そこに絵を描かせてもらえるならこんなチャンスはないと思ってお引き受けしました。でも『じーばーそだち』がきっかけだとは知らなかった~。
有川
よかったら後でこのコミックにサインしてください。ほんと、ただファンとして会いに来たみたいですみません(笑)。
――キャラクターデザインが届いたときの有川さんの喜びの声は忘れられません。
有川
絵だけでもう勝った!と思いましたもん。そして扉絵をいただいたら、漫画と同じく細部までこだわりの描き込みがあって感動しました。第一話の扉絵なんて、よく見ると壁に「酔鯨」の貼り紙があるんですよ! 郷土のお酒から名前をとった「酔いどれ鯨」の由来をばっちり汲み取ってくださって。
須藤
有川さんは高知のご出身だと伺って「きっとそうだろうなぁ」と思い、こっそりメッセージを込めてみたので、反応していただけて私も嬉しかったです。
有川
第一話のファーストインパクトからして絶大だったので、どの絵が一番好きとか選ぶのも不可能なんですが、特に凄いなと思うのが、第六話までまったくテンションが下がらないところ。しかも毎回毎回、構図ががらりと違うんですよね。
須藤
変えていこうというのは意識していました。第一話がアップだったので、第二話は引きで全身を描きたいな、とか。
有川
須藤さんの漫画は、漫画として面白いのはもちろんですけど、ページ全体にデザインがあるのがまた凄いと思うんです。扉絵でもいつもカメラワークが独特で、ビジュアル分野のプロは切り取り方が違うんだな、と思います。
須藤
そんなそんな……条件を集めていくと自然としぼり込まれる感じなんですよ。三人が歩いてる風景を描きたい、月を入れたい、表情も見せたい、それでパースをつけて勇ましく進んでいく感じを出したい――となると下からだな、という構図が残るんです。
有川
そこでカメラを地面に持っていくという発想が凄いんですよ!
須藤
あんまり褒められると喉が渇いちゃうな……もう一杯飲んでいいですか(笑)。
有川
どうぞどうぞ(笑)。原稿を読んでいただいたときに、どういう扉絵にしようというのはすぐ決まるものですか?
須藤
結構ぱっと浮かぶほうですね。描きすぎてネタを割らないように、四コマ漫画でいうなら一、二コマ目くらいまででイラストとして成立させる感じで考えてました。毎回、有川さんの原稿が届くのがとても早かったので、じっくり読み込んでからイラストに取り掛かれるのがありがたかったです。
有川
根がチキンなもので、実は連載するときは早めに書きためてから始めることにしているんですよ。
須藤
な、なんてえらい……ちょっと心が洗われてしまいました。じゃあ、最初から三人のキャラクターや家族構成なんかも決まっていたんですか?
有川
最近のお年寄りって若いよね、ということは以前から感じていたので、そういう人たちを主人公に据えたらどうだろう、というのがそもそもの始まりですね。私はよく年配の方からも感想などをいただくんですが、みなさん熱くキャラ語りとかしてくださるんですよ。
須藤
いいですねー。それは羨ましいです。
有川
いまどきのお年寄りって本当に元気ですし、年配の方は渋いものが好きというのも勝手な思い込みなのかもしれないですね。そこにさらに、時代劇のスキームを現代劇に持ち込んだら面白そうだなと考えたときに『三匹が斬る!』から『三匹のおっさん』と連想が働いて。そのタイトルにつられるようにしてぽろっと“三匹の悪ガキ”と出てきた感じですね。
須藤
幼馴染という設定がまた良いんですよね! 同じ仲良くなるにしても近所の飲み屋の常連同士が親しくなって「清田さん」「立花さん」とか呼び合うのとじゃ全然違いますもんね。
有川
三人は気心知れた感じでやりたかったので、名前もキヨ、シゲ、ノリ、と愛称から先に決まったんですよ。軸になる三匹が生まれたら、その家族もするすると出てきましたね。
――ここで、三匹それぞれについてもっと詳しく語っていただきましょう。まずは次回、我らが主人公キヨの登場です!