MISSION#04 文春ジャーナリズムの進む道

週刊文春編集局長

新谷 学

1964年生まれ。1989年入社。「Number」、「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長を務める。2018年7月より同編集局長に就任。

週刊文春」ってどんな部署ですか?

図にあるとおり、「週刊文春」編集局は、雑誌、デジタル、WEB、出版の4つの部署が横に展開して成り立つ組織です。それぞれ簡単にご説明します。

まず「週刊文春」編集部。紙の「週刊文春」を作る部署です。部員は社員、契約社員を合わせて約60人いる大所帯です。

次に「週刊文春デジタル」編集部。デジタル向けのスクープ取材をし、ニコニコ動画やYahoo!、LINEなどに有料配信もしています。

続けて「文春オンライン」編集部。2017年1月にスタートした新しいメディアです。現在爆発的にPVが伸びており、2019年11月には月間3億PVを達成。出版社系ニュースサイトのトップグループに躍り出ました。

最後に、週刊文春出版部。女性向けの新雑誌「週刊文春WOMAN」や韓国ベストセラーをいち早く翻訳した『反日種族主義』など、スピード感とスクープ性のある本を出しています。

実際にどんな仕事をするのですか?

出版社の仕事のイメージは、「編集者」になると思います。週刊文春編集局では「編集者」の仕事だけでなく、「記者」の仕事もしてもらいます。企画を出すだけでなく、自分で取材をし、原稿を書くということです。

他の出版社の場合、自分で原稿をほとんど書いたことがない編集者もたくさんいます。そういう編集者は、企画を思いついたとき、ライターを探すことから仕事が始まります。一方、週刊文春の社員はすぐに自分で資料を集め、アポを取り、取材をし、記事を書くことができます。

「いま、あのひとの原稿を書いたら面白い!」と感じたとき、外部ライターにお願いするのと、自分で取材・執筆ができるのとでは、スピードに雲泥の差が出ます。特にWEBが強い今、スピードは重要なスキルです。

そしてこの「取材スキル」は、ほかの編集部に行っても役立ちます。たとえば小説家が「○○を舞台に作品を書きたい」と言ったとします。「取材スキル」があれば、資料収集はもちろんのこと、いろいろなひとに取材できます。作品に幅と深みが生まれるのです。

週刊文春で培った「取材スキル」は基礎体力として、どこの部署にいっても通用する財産になります。

週刊文春の「強み」は何ですか?

編集長時代も局長になった今も、「なぜ文春ばかりがスクープを取れるのですか?」と数え切れないほど聞かれました。答えは簡単です。スクープを狙っているからです。

2019年は週刊文春の調査報道によって、10月下旬に菅原一秀経産相、河井克行法務相が相次いで辞任しました。週刊文春の数十倍の記者を抱え、政治部を永田町に常駐させている大新聞やテレビ局が臍を噛む連続スクープでした。

「どこよりも早く、正確に、面白い」メディアとして選ばれるために、取材チームは工夫を重ねます。たとえば、河井法相夫妻の選挙違反では、口裏を合わせられないように、ウグイス嬢10数人に記者10数人がいっせいに直撃取材したんですよ。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」のヤラセ問題は、ニセの「橋祭り」現場のラオスで3週間じっくり取材した成果です。

週刊文春の強みは「スクープ」です。そして「スクープ」とは「世の中にまだ現れていない」情報のことです。社会には「世の中にまだない価値」を生み出す企業がたくさんありますが、週刊文春は「世の中にまだ現れていない情報」を取材して報じるプロフェッショナルです。

ネット系のニュースメディアを読むと、単なるまとめサイトとか芸能人のブログやインスタグラムをただなぞっているだけの記事がたくさんありますね。それって仕事として、何か楽しいのかなといつも思います。

週刊文春はひとのマネをするのではなく、未だ見ぬ情報を取材します。そのためには手間暇お金すべてを惜しみません。

いちばん面白い瞬間って何ですか?

この仕事は、現実社会のリアルなミステリーを解くようなものだから、面白さはたくさんあります。なかでも驚かれるのはスキャンダル取材をした対象者と、むしろ親しくなるケースがあることです。

たとえば、「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音さん。ベッキーさんの記事のあと、MVを文春社内で撮影しに来てくれました。昨年、週刊文春×BEAMSがコラボしたムックでも<FASHION is SCANDAL!!>と銘打って、BEAMSの最新コレクションを着て撮影させてもらいました。俳優の原田龍二さんも同じムックに登場してくださいました(何があったか知らないひとは調べてみてください)。

我々は何もそのひとが憎くて取材をしているわけではないんです。それが「世の中にまだ現れていない情報」であれば、どんな取材でもします。誰かにとって都合のいい情報だから取材する、誰かにとって都合が悪いから隠す、という“忖度”は一切しません。新しい情報を提示するのが私たちの仕事。その是非を議論するのは読者の皆さんです。

いまは誰もがSNSなどで発信して、自分自身がメディアになれるから、「権力側に都合のいい情報」で埋め尽くされてしまう。政治家や経営者のフェイクニュースも、芸能人のステマも同じことです。でも、そんな建前や綺麗ごとばかりの世の中、息苦しくないですか? だから週刊文春は、その人の本音のところを伝えたい。立派な面も情けない面もあるからこそ、人間って面白いし愛おしい、というのが文春ジャーナリズムの精神です。

故・立川談志さんの「落語は人間の業(ごう)の肯定だ」という言葉を、弟子の談春さんから教えてもらったとき、「週刊文春と同じだ!」と膝を打ちました。

これからどんなチャレンジをしていきたいですか?

出版社に限らず、あらゆるニュースメディアのナンバーワンを目指しています。

冒頭でお話ししたとおり、文春オンラインが出版社系ニュースサイトのトップに躍り出ました。2019年10月に月間2億PVを達成したと思ったら、その翌月には3億PVと急成長しています。

背景を説明すると、この間に沢尻エリカさんの逮捕がありました。紙の週刊文春では2012年から沢尻さんと芸能界の薬物問題を取材しており、逮捕にあわせて過去記事をリンクしたところ、爆発的に読まれたのです。沢尻さん逮捕報道とその関連記事を併せて月間1億PVを超えました。

2012年当時、沢尻さんの薬物問題を報じるメディアは週刊文春のほかにどこにもありませんでした。沢尻さん逮捕の背景を知りたい読者が文春オンラインに殺到したわけです。もともと紙の週刊文春で培った伝統の「スクープ力」が、文春オンラインと結びつき、かつてない相乗効果を上げました。

デジタルによってニュースの時間軸が自由になり、紙とは違った切り口や伝え方も可能になっています。週刊文春には創刊60年を超える長い歴史がありますが、そのアーカイブをどう使うか、今がいちばんエキサイティングな時代だと思っています。

どんな人が「週刊文春」に向いていますか?

「明るい野次馬精神」がある人、がいいですね。「靴のかかとが浮いている」、つまりフットワークが軽いのも大事です。

文春ジャーナリズムの根っこは人間への好奇心です。気になったこと、会ってみたい人がいれば、どんどん首を突っ込んでください。週刊文春の名刺があれば、政治家、経済人、学者、芸能人、スポーツ選手など、大抵のひとには会えます。彼らと話すことで、かつて経験したことのない刺激を受けるはずです。インターネットではわからない世の中の真実を、生身の人間は教えてくれます。

自分にはそんな「スクープ」なんて取れない、と臆してしまう方もいらっしゃると思います。当然、「スクープ」はすぐに取れるものではありません(笑)。努力も必要ですが、経験も必要ですし、運もあります。

私たちも最初からそんな高い要求はしませんし、「世の中にまだ現れていない情報」を見出す原点は発想にあります。

「世の中ではこういわれているけど、ちょっと違うんじゃないか?」

そういう素朴な疑問を大切にできるひとは記者、編集者向きです。週刊文春には硬派な印象があると思いますが、局全体の若手社員の半数は女性社員です。社内一、平均年齢が若い部署でもあります。

培ってきたノウハウは、惜しみなく皆さんに教えます。デジタルネイティブ世代の柔軟な発想を武器に、思いもよらないチャレンジをしてくれる若者を待っています。