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さらに翌日、妙子は再び調査報告のためにマンションに向かったが、あの公園でキララの姿を見つけてびっくりした。
いや、正確には公園ではなく、その隣の古い民家の前だ。その玄関に体を向けて、ぽつんと直立不動で立っている。職業的な習性か、思わず物陰に身をひそめようとしたが、いち早くキララはこちらに気づいて、「あ。妙子様ぁ~」と手を振った。
さすがロボット。こちらの存在を悟られずに監視や尾行をするのは難しいようだ。近づいて「一人?」と訊くと、
「侑平様はそちらですう」
指さした公園を覗きこむと、確かにベンチで侑平がグースカ眠りこけている。
「それで、何をしているの? まさか、彼がこんなところで昼寝をしたいと言い出したわけじゃないんでしょう」
「あれから考えていたことがございまして、侑平様にお願いして、連れてきていただきましたぁ」
「考えていたこと?」
「ご覧くださ~い」
キララは民家のほうを指さした。
木造モルタルの、築五十年はたっていそうなこぢんまりした平屋だ。壁はあちこち罅割れ、剥げ落ちて、最後の補修からですら軽く二十年は経過しているだろう。申し訳程度の広さの庭もすっかり荒れ果てている。ただ、決して無人の廃屋ではないのは、今は空の駐車スペースに洗車した跡が残っていることから明らかだった。
キララの指の先にあるのは、一部分ガラスの割れた小窓のようだ。しかし、ガラスが割れているとは言え、カーテンもかかっているし、その窓はこちらの眼よりも高い位置にある。
「あれが何か?」
「カーテンの隙間から天井近くの時計が見えるんですけどぉ、その時計が斜めに取りつけられているので、ちょうど部屋の真ん中にあるテーブルが映りこんでいるんですう」
妙子は顔を横に寄せてみたが、
「ほんと? 私には時計さえ見えないけど」
「ああ、申し訳ございませえん。人間のお方にはご無理でしょうか~。そのテーブルの上に注射器や白い粉のはいった袋がいくつも置かれているんですう」
妙子はぎょっとして、
「覚醒剤――?」
「やはりそうお思いですかぁ。ですが、私にはそれを確かめることまではできませぇん。いったいどうすればよろしいでしょうか~」
急いで頭を巡らせた妙子は、
「分かりました~」
キララは寝惚け眼の侑平を連れて帰っていった。
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