対談:清涼院流水×水野俊哉

水野
その三日後に私の仕事場の椅子が壊れました。座りっぱなしで書き続けていたため、脱稿とほぼ同時に椅子の脚が二本折れて、もんどり打って倒れたんです。
清涼院

戦国武将が馬を乗りつぶしたみたいにね(笑)。

水野

そのくらい、集中して書き続けていたのは事実です。何が起こってもおかしくない、信じていたものが一瞬で覆ることだってある。『コズミック・ゼロ』で描かれる世界はもちろんフィクションですが、私たちが一瞬先に何が起こるかわからない世界に生きていることはまぎれもない事実ですから。

清涼院

僕の実家が阪神大震災で全壊した時、人生観や常識、創作スタイルなど、それまでの僕のすべてが一瞬で変わってしまいました。僕は昔からミステリーファンですが、あの震災を体験して以来、ミステリーで現実を超える作品はないと思うようになってしまった。まさに「事実は小説より奇なり」なんです。そういう体験を経て書き出したのが『コズミック』から始まる一連の作品なんですが、十二年以上たって、またあの時と同じような感覚を抱いているんです。『コズミック・ゼロ』で何が起きてもおかしくない世界を書いている真っ最中に、百年に一度と言われる世界金融危機が起こったりしたわけですから。

水野
世界的な金融機関が一瞬で倒産したり、世界中で同時に株価が下がったりするのは、統計上の確率でいうと百年に一度どころか、ビッグバン以来の宇宙の歴史の中で起こるはずがないくらいの異常事態です。そういう不確実なことが現に我々の目の前で起こっている、今まで信じていた世界を根底から疑わざるをえないようなことが起こるんだということを、流水さんと一緒に何度も話してきましたし、今回の作品にもそういう思想というか、無常観が表現されていると思います。世界同時株安がなぜ起こったかを分析する本は何十冊も出ましたが、予見できた人は誰もいなかったように、不確実性に満ちたこの世界では、『コズミック・ゼロ』を完全なつくり話だと言い切ることは誰にもできません。そういうビジネス的な視点から見ても、すごく面白い小説だと思いますね。
清涼院

投資のスペシャリストである内藤 忍さんも、そのあたりのテーマで興味を示してくださいましたよね。

水野

内藤さんは投資ユーザーに対する金融教育などをするマネックス・ユニバーシティという会社の社長さんで、彼に『コズミック・ゼロ』を紹介して、これを国家や経済の崩壊のシミュレーションとして読んでみると面白いのではないかとお話したら大変興味を持たれて、すぐに流水さんとの交流も実現しました。
 私自身も日本経済が究極に悪化したら何が起こるのかとか、国家がデフォルトしたらどうなるかということを『コズミック・ゼロ』を読みながら少し考えてしまいました。