内容紹介

48人の主人公が織りなす春・夏・秋・冬の48の物語。

「ひとの“想い”を信じていなければ、小説は書けない気がする」という著者が描きだした、

普通の人々の小さくて大きな世界がここにあります。

「春」の巻き 12人の主人公たち

宮脇
『あっつあつの、ほっくほく』

「味が足りなかったら、塩、ご自由にぃ」

バスケ部キャプテンの女子高生。厳しいメニューを組んで、部で孤立してしまう。長じて第三営業部のゼネラルマネージャー。創業以来初めての女性部長で社内の風当たりも強い。

僕
『コーヒーもう一杯』

「あのとき、わたしは遠い未来に一瞬だけ先回りしちゃったのよ、たぶん」

親にも大家にも内緒で、2歳年上の彼女と同棲する19歳の大学生。洗濯機もないアパートに手回しのコーヒーミルを導入した彼女の好みはマンデリンだった。

男
『冬の散歩道』

「おじさん……このへんに鍵が落ちてませんでしたか?」

桜並木の公園にもなっている川沿いの遊歩道で、疲れ切ってベンチに座り込んでいる30すぎの男。ちょっと腰を下ろしたつもりが立ち上がれなくなってしまった。

なっちゃん
『サンタ・エクスプレス』

「ね、パパ、パパ、きいてきいて」

双子を出産する母親が実家に帰省したため、毎週父親につれられて名古屋へかよう5歳の少女。名古屋までの行きの新幹線は機嫌がいいけれど、帰りはいつでもぐずってしまう。

直紀
『ネコはコタツで』

「おふくろの実家は『すまし』だったな」

年老いた父親が死んで、四十九日の法要が終ったあとから母親がめっきり老け込んだ。年末にはどっさり届いたはずの漬け物も今年は来ない。送ってきたお餅はいつもと違っていた――久しぶりに母親に会いに行った中年の男。

齋藤
『ごまめ』

「なにも元旦から出かけることはないだろ、あいつも」

子どもたちが大きくなって、元日を家族揃っては一日過ごせなくなった。恒例行事にこだわりたい、高校2年生の長女と中学2年生の長男をもつ40代の父親。

秋元
『火の用心』

「なんなんだろうね、小野って。あいつのしゃべり方、マジむかつくんですけど」

中学時代の友だち、そして40代半ばの地元工務店の社長とその同級生と四人で、下町の町内会の「火の用心」の夜回り当番をつとめる女子高生。

泰司
『その年の初雪』

「雪、降るよな、これ、絶対に降るよな」

小学校にあがってから既に転校を三回している小学4年生。迎えた二度目の冬で『かまくら』を友だちの三上くんと一緒につくるのを楽しみにしていた。

美紀ちゃんのママ
『一陽来復』

「豆まきしようか、今夜」

4歳になるひとり娘と暮らす離婚したての女性。

僕
『一陽来復』

「豆まきしようか、今夜」

97歳のひいおじいちゃんを亡くしたばかりの15歳の高校生。

加奈
『一陽来復』

「豆まきしようか、今夜」

中学受験に失敗した12歳の女の子。

僕
『じゅんちゃんの北斗七星』

「これからも、じゅんと仲良くしてやってね」

同じ団地のお隣にすむ幼なじみの“じゅんちゃん”は幼稚園の人気者だった。けれど小学校にあがるころ、だんだん様子が変わってきて――大好きな友だちだった少年の記憶をたどる40代後半の男。

私
『バレンタイン・デビュー』

「おそろしいほど勘が鋭くなるものなんだ、バレンタイン・デーのモテない男子ってのは」

息子のバレンタインデーをはらはらしながら見守る父親。モテない男子高校生の一年でもっとも厳しい一日について、家族に熱く語る。

僕
『サクラ、イツカ、サク』

「こういうのは釣りと同じなんだ」

春合宿を野宿にしないために映画サークルの先輩とふたりでバンザイ隊を結成し、合格発表を見にきた受験生をカモに小金を巻き上げる大学2年生。一年前は同じ先輩からバンザイ攻撃をうけたものの、手元不如意で払えなかった。