東野圭吾プロフィール

「ガリレオ創作秘話──閃きはすべてものにする」

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――不可能という状態から短編を作り上げた、その過程を聞かせてください。

東野

執筆の流れはこうです。
まず事件を起こそうと事件のシーンを書く。で、ダウジングで何を探すんだろうと考える。 わからないけども、何かがなくなってる、探すのは土の中に埋まってるものだろう。 埋めるものといったら、死体。 最初は人間の死体にしようと思った。 だけど、人間の死体ってどういうことよ。 ダウジングで見つけるのは無理だろう……という感じで詰まってしまう。 で次に、待てよ、犯人は一体なんでこの家に入ったんだ、と考えて、強盗か、となる。 金目のものがあるからだと。 金目のものって、たとえば札束がドカッとある家なんかいまどきないだろうと。 といっても通帳を盗んだってだめだし。 じゃ、金の延べ棒か、という流れです。
だけれども、まだこの時点でダウジングはちっとも出てこない。
で、まあいいや、ダウジングで女の子が何かを見つけたということにして、その謎を内海が湯川のところに相談しにいくことにしようということで、そのシーンを書く。さあ、ここから物語が動かない。 じゃ、その子を湯川に会わせてみよう、と考えるわけだけど、この時点ではまだどうしていいかわからない。 そもそもどうしてこの女の子がダウジングをするんだろうと考える。

――しかも、非科学的なダウジングという手法でどうして探し物を見つけられるのか?  ここから先は、本で読んでいただくとして、湯川がダウジングのトリックを見抜くことを考えつかれたのが、決定的な閃きではないのですか?

東野

人はそれを閃きと言うかもしれないけど、僕にとっては閃きなんかじゃない。 何度も諦めて、だけど捨てがたいともう一度考えて、そこからやっと別の発想が出てきた。 ダウジングはダメだ。 非科学的である、ということを使う方法があるぞと。 最後に湯川が「内海君、君はまだ科学というものがわかってないな」というセリフを言うんだけれど、ガリレオシリーズでたまにはこんなものがあってもいいんじゃないかという短編になった。 いま簡単に喋ったけども、これがなかなかしんどいんです。

――最初の時点で「あっこれは閃いた。書くぞ!」というのはないわけですね。

東野

ドーンと閃いて、よし、これで一本書ける、というようなそんな閃きはね、五年に一回ぐらいしか生まれない、僕の場合は。
でも『ガリレオの苦悩』は、短期間によくこんなのを書いたなあと思うし、ものすごく手ごたえがあって、満足しています。
これらの短編の一つ一つにそれぞれ意味があり、湯川の苦悩があるんです。 「落下(おち)る」では内海 薫が初登場であり、湯川は、もう警察の捜査にはかかわりたくないと言っている。 「操縦(あやつ)る」は、湯川が恩師との関係に苦悩しつつ謎を解く。 「密室(とじ)る」というのは、これは草薙と薫は出てこないんだけども、別のところで湯川が勝手に活動する。 「指標(しめ)す」というのは、実は科学の分野とは違う話です。 「攪乱(みだ)す」というのも、犯人と湯川は一見関係がなさそうだけれども……というふうに、各々の作品で、非常に面白い仕掛けができたかなと思っています。湯川は喜んで謎解きをやっているわけじゃないというのが、今回の短編集の特徴です。

――読み終えたあとに、湯川という人物像のピースが一つずつ埋まってくる作品だという気がしました。

東野

それは良かった。でも、これは読んでもらったらわかると思うけど、湯川を演じている福山雅治さんにそうとう引っ張られてるよね(笑)。

――福山さんが演じる湯川 学の影響はありますか?

東野

もちろんあります。湯川の仕草を描くときに、福山さんの顔を想像していますから。 柴咲コウさん、北村一輝さんたちにも影響されていますよ。 それは決して悪いことじゃないと思っています。

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より詳しいインタビューは、「ガリレオ創作秘話──閃きはすべてものにする」 (オール讀物2008年11月号でお楽しみください。

オール讀物 11月号