東野圭吾プロフィール

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「ガリレオ創作秘話──閃きはすべてものにする」

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――読み終えて、綾音ならこのトリックで人を殺すだろうと思ってしまいます。

東野

たとえば、彼女はパッチワークをしている。一針、一針、一年くらい時間をかけて心をこめて仕上げていく。執念のようなものを感じさせる職業ですよね。それが作品の世界観に影響を与えているんです。
今回、自分で気にいっている部分があって、これはネタバレになるから言えないんですが、パッチワークをする女性ということを気に留めて読んでください。自画自賛するようだけど、この作品では、小説の世界観とトリックがうまく融合したかなと思っています。

――トリックと人物造形では、どちらが先に思い浮かんだのでしょうか?

東野

うーん、それは今回の場合だと、同時かもしれないですね。どっちにしても、なんかこんな女なんだよ、と思ったときに、何をしそうかなと思ったら……考えられないトリックを使って人を殺すということが思い浮かんだ。トリックのアイデアとパッチワークをやる女性というのがほぼ同時に出てきたんです。

――このトリックを思いついたときのことは覚えてらっしゃいますか?

東野

場所などは覚えていないですね。ただ、今回のトリックの要点は、湯川がもっとも解けなさそうな謎、ということなんです。
だからキーワードは、論理的じゃない、合理的じゃないという言葉。湯川がまず「こんなのはまったく論理的じゃない、合理的じゃない」というセリフをはくようなトリックはないだろうか、と考えた。

――『聖女の救済』では、極めて論理的である湯川が、論理的でない犯行を見抜くわけなんですが、東野さんの中で湯川 学というキャラクターは変化していっているのでしょうか。

東野

確かに変わってきてます。『探偵ガリレオ』『予知夢』のころと比べて、湯川も成長していますね。ただ今回も湯川は脇役で、どちらかといえば、草薙が事件に振り回される。だけれども、湯川はけっして草薙を馬鹿にはしていない。『容疑者Xの献身』で初めて、湯川の人間としての部分を書きたいなと思ったんですけど、今回も引き続きそれがうまくいったとは思っています。それから内海 薫という女性刑事のキャラクターを登場させたことによって、湯川草薙、綾音が、より立体的に描けるようになったなと感じています。

――男女の性差における感性の違いというのが、端的に出てますね。

東野

特に今回の事件では、重要参考人が綾音という女性ですから、男の刑事の目と、女の刑事の目を作れたことが、作品の可能性を広げました。 もともと容疑者に恋をしてしまう草薙を見るもう一つの視点がほしかったんだけど、これを女性にするか男性にするかは決めていなかった。やっぱり女性にしたことによって違う見方ができたので、これは成功の要因かなと思っています。
ガリレオの苦悩』でも、二人の視点の差異が重要だったりするので、これは収穫でしたね。

――今作を読み終えた後に、このタイトル『聖女の救済』の意味を改めて噛み締めました。最後まで読んで初めて、タイトルに込められた深い意味が分かる。

東野

その通りですね。『容疑者Xの献身』のときは、京極夏彦さんに、タイトルからしてすでにネタバレですよね、と言われたくらいです。これから読まれる方は、『聖女の救済』というタイトルの意味をいろいろ想像しながら楽しんでください。

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