●ウェブの「あちら側」での作業
尋常でない忙しさにも関わらず、いったん心に火がつくと即座に行動するのが、梅田さんの気質だ。保守的な出版業界のなかでも、とりわけ旧世界にどっぷりつかっている老舗出版社にとっては、梅田さんの「ウェブ2.0型」の仕事の進め方は全くの未体験ゾーンだった。
今回の本作りの段取りとしては下地の構成作業・原稿作りにライターさんに加わってもらうことが決まっていた。ゼロからの書き下ろしでは、あまりに時間的に厳しかったからだ。まず名言を選定し、その一つひとつを梅田さんが講義形式で解説していく。口述をもとに編集部で構成・ライティングしたものに著者が大幅に手を入れるという段取りだった。


「はてな」のワークスペース
▲「はてな」のワークスペース。大半の編集作業はウェブの「あちら側」で進められた
その第一段階、ビジョナリーたちの名言の選定と大まかな構成作業を、なんとすべてウェブ上で――「はてな」のワークスペースで行うと、梅田さんは指示してきたのである。
「はてな」のグループ機能を使うと、招待メンバーのみアクセスできるウェブ上のスペースをもつことができる。そこに各人は自由にテクストをアップし、互いに情報を共有しつつ編集作業を行うことになる。梅田さんは、長年温めてきた名言をどんどんアップしていくから、チームで選定作業をしていこうという。
「はてな」のグループ機能の利点は、キーワードにより複数の資料にたいして相互リンクをはれる点や、文章への推敲や加筆の記録がすべて残るため、いつでも即座に前のバージョンを参照することができる点にあった。
著者の脳の中で日々増殖していく情報と思考が、一大地図としてウェブ上に展開されるわけだ。
この作業を開始するにあたって梅田さんが最初にアップした文章は「オプティミズムのシャワーを浴びた日々」というものだ。この本をつらぬくコンセプトの力強い宣言だった。

「不確実なもの(未来)を肯定的に断定しそれを前提に行動せよ。明るい前向きな言葉をシャワーのように浴びながら、その言葉が正しかったんだという事実を近未来史の中で突きつけられ続けてきた、そして今度は自分もそういう言葉を発したいなと思い――そういう言葉を発したり受けたりしながら長い期間生きることがどれほど精神的によいのかを、読者に伝えたい。それが、ぼくがシリコンバレーで身につけた『大人の流儀』なんだ」
期待に胸が高鳴った。だがここから、紙ベースの作業に慣れきったぼくらには想像を絶する難作業が待ち受けていた。
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