
8月15日。酷暑の日。彼女は無残に絞殺されて発見された。宮崎光子。
憲兵隊の捜査は、しかし、終戦の混乱によって頓挫する。
その死は未解決に終わる。
すべてはそこからはじまる。誰が彼女を殺したのか。
そして1946年夏、同じ手口で殺された女たちが次々に発見される。
敗戦によって解き放たれた殺人鬼が、瓦礫と化した東京を徘徊しているのだ。
その獣はいったい何者なのか?

その名を松田義一。
新橋のマーケットを支配し、軍や警察にも強力なパイプを持つテキ屋の大物。
その松田が殺された。銃弾を撃ち込んだ男も直後に死体で見つかる。
東京のアンダーワールドは一触即発の状態にあった。
闇市利権から排除された中国・台湾・朝鮮のアウトローたちが
機関銃まで動員し、銃撃戦も辞さずに新橋を狙う。
そこにうごめく警察とGHQの影。松田暗殺は誰のしわざなのか?

身元不明の死者のために、警視庁・三波警部補はさまよう。
敗戦と占領がもたらした東京という地獄の底を。
忘れられた無数の屍が埋められた暗い森を。
だが彼の周囲に陰謀の気配が渦巻きはじめる。
新聞記者、ヤクザの大物、警視庁の上層部、GHQ……
渦の中心にあるのは三波の忌まわしい秘密だ。
それが暴かれるとき、三波の心の闇が決壊し、
痛ましい真実が奔流となってあふれ出す……。 |