解説 津田大介

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しかし、ここまでの話ではまだ市場経済の価値があとからついてきたことにはならない。本書が主張しているのは、最終的には、市場経済の価値もギフト経済のウッフィーについてくる、ということである。

僕の場合は、ツイッター上での活動が知れ渡ったことで、『Twitter 社会論』(新書y)という本を書く機会を与えられた。それを読んでくれた人の中には『ウェブ進化論』(ちくま新書)を書いた梅田望夫さんがいた。梅田さんは僕の書いた本『Twitter 社会論』を高く評価してくれ、今回『ツイッターノミクス』編集者下山 進さんと会った時に、僕の存在と拙著について下山さんに話してくれたのだ。ちょうどそのとき、下山さんはこの本『ツイッターノミクス』の解説を書いてくれる人を探していた。そして今、僕は原稿料をもらってこの解説を書いている。おかげさまで『Twitter 社会論』も最近の新書としては好調で、現在四万部を突破している。02年にブログを開設して以来、少しずつ貯めてきたウッフィーに市場経済的な価値が付いていきつつあることを今まさに実感している。

さて、本書は日本がやがて置かれるであろう状況を先取りしている米国の事例を元に「新しいルール」を教えてくれるわけだが、僕が、とりわけ日本の読者(企業も含めて)に役に立つと思っているのは、主に第2章や第7章で展開されている「オンライン上でやってはいけないこと」だ。

ここでは、たとえば、お金を払ってブロガーに自社の製品について書かせようとした会社のことや、やらせのサイトで逆に企業価値を低めたウォルマートの例などがひかれているが、実は日本でもまったく同じ現象が起きている。

ブログブーム真っ直中で、「マーケティングに有用」だと認識されていた05年11月。ソニーが新しいウォークマン製品の発売に合わせて、製品を使用している4人の「消費者」ブログを紹介した。しかし、この消費者ブログを見た多くの人から不自然な点を指摘する声が上がり、ブログには素人を装ったソニー運営の「やらせブログ」ではないかという文句が殺到。ついには閉鎖せざるを得なくなった。

その後も女子大生が企業からお金をもらってブログで(そのことを明かさずに)特定の商品をPRしている事例が発覚してコメント欄に非難が殺到するといったことも起きた。ソーシャル・メディアを自らのエゴのためだけに利用しようとする行為は、日米どちらでも嫌われる。これは肝に銘じておきたい。

また、個人的にオススメしたいのが、第4章で掲げてある八つの秘訣だ。ここでタラ・ハントは「ウェブ上で顧客を増やす八つの秘訣」としてマーケティングの専門家らしいタイトルをつけているが、実はこの八つの秘訣は「顧客」を増やそうとしている企業にかぎらない、ウェブを利用している全ての人が学ぶべきリテラシーだ。たとえば、その3に「個人攻撃と受け止めない」という項がある。

ブログやSNSをやったことがある人なら一度は批判的なコメントにどう対応するか、悩んだことがあるだろう。

タラ・ハントは「じつは私は批判をまともに受け止めてしまうタイプで」と正直に白状したうえで、そうしたときの心構えを説いている。

<たった一通の批判の方で頭がいっぱいになり、寝ても覚めてもそればかり考えてしまった。そうなるとどうしても感情的になり、自分を正当化しようとする。それが透けて見えるような反応をすれば、必要以上に相手を敵対的にさせてしまう。そうなれば、批判した相手だけでなく、ブログの読者全員に不快感を与え、信頼を失い、ウッフィーを減らすことになる。(略)大事なのは、ネガティブなフィードバックから何を学べるか、考えるようにすることである。>(本書90~91ページ)

ここで語られているさまざまなノウハウは、ブログやSNSをやっている個人だけでなく、企業でソーシャル・メディアを活用している人にとっての貴重な危機管理マニュアルになるはずだ。

本書で書かれていることは、日頃からオンラインメディアにどっぷり浸っている人にとっては自然に納得できることばかりだ。

とはいえ、まだまだ日本のギフト経済は発展途上にある。日本のウェブ上では、この本で紹介されたようなワークシェアリングのような実践は少ないし、日本には、一定以上の寄付を納めると税金が大幅に安くなるような制度がなく、社会的に成功を収めた企業がNPOに寄付をする習慣も米国ほどには根付いていないため、ソーシャル・メディア発のNPOはまだまだ絶対数が少ない。

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