あらすじ

第一部

鎌倉で、蜻蛉のような恋愛小説家の父を持つ山野内荒野、十二歳。大人以前。中学校入学の日、閉まる電車のドアに制服を挟まれた荒野は、文庫本を熱心に読んでいた少年に助けられた。文庫少年と同じクラスになるが、荒野の名前を聞いた途端、なぜか冷たい目で睨む。大人びた美人の江里華、活発な麻美という友達もできた荒野。ようやく恋らしきなにかをつかまえたとともに、身近な大人たちの暗く熱く湿った感情にも気付き始める。

第二部

荒野、十三歳。大人になるすこし前。荒野が心を寄せる相手は遠く海を渡ってしまい、たまに届く手紙を楽しみにしている。女の子も男の子も恋の話題に敏感で、カップルもちらほら成立する。しつこいニキビに悩まされる荒野は男子と話すのも苦手だったが、そんな荒野に好意を寄せる男子もあらわれた。義母の蓉子さんが妊娠し、家の中も空気もとろりと変化していく。

第三部

荒野、十五歳。荒野の想い人、悠也は海の向こうから戻ってきて東京の高校へ進学。麻美は年上の新しい彼氏と付き合い始め、美しき江里華は孤高を貫いている。荒野には妹が誕生し、今まであんなに女の気配で満ちていた家の中が不思議なほど静けさに満ちていた。そんなころ、父・正慶の本「涙橋」が恋愛小説に贈られる賞の候補になるが、その中で描かれていた女というのは……。荒野、子供から大人へ。時は流れた――。