内容紹介

48人の主人公が織りなす春・夏・秋・冬の48の物語。

「ひとの“想い”を信じていなければ、小説は書けない気がする」という著者が描きだした、

普通の人々の小さくて大きな世界がここにあります。

「夏」の巻き 12人の主人公たち

私
『親知らず』

「どうしたん、一年生で泣いとったら、おかしいなあ――」

故郷での母の葬儀のあと、激しく痛みはじめた親知らず。妻よりも付き合いの長い歯の痛みに耐えかね、町の歯医者を訪れた40代後半の課長

和人
『あじさい、揺れて』

「あのな、こういうアイスのいちばんうまい食い方って、知ってるか?」

若くして亡くなった10才年上の兄貴の奥さんが再婚の報告のため、両親に会いにくる。嫂と幼い甥との“最後の一家団欒”に気持ちが揺れる大学4年生

ノブさん
『その次の雨の日のために』

「中学校が義務教育だなんて思ってるのは、親と教師だけだから」

公立中学の教壇に立ちながら、不登校児のためのフリースクール『虹の子学園』で15年間ボランティアを続ける45才の教師

ミッちゃん
『ささのは さらさら』

「お母さんは近藤さんと会って、お父さんのこと思い出したりしないの?」

大好きだった父親を末期の肺ガンで亡くして3年。急に浮上した母親の再婚話にそう素直には賛成できない高校1年生の女の子

僕
『風鈴』

「あの部屋にはまだたくさん、使い残しの幸せがありますから」

あの年、僕らの住んでいた『新婚さんハイツ』に、1組の若いカップルが越してきた。バンドの夢が捨てられない24才

僕
『僕たちのミシシッピ・リバー』

「最後だから、ミシシッピ・リバーをくだろう」

誰より気の合う相棒トオルが引っ越してしまう……。憧れのトム・ソーヤーとハックルベリー・フィンのように冒険に出かける小学5年生の男の子

クリマン
『魔法使いの絵の具』

「昔、一緒にツユクサの色水つくって遊んだん覚えとる?」

久しぶりに帰郷してきた優等生の幼なじみは、すっかり雰囲気が変わっていた。まるでかみ合わない会話にとまどう35才・一児の母

テル
『終わりの後の始まりの前に』

「あいつが投げ込んだ、あの一球――絶対、ボールだった」

県予選の2回戦でシード校のS学院に当たった弱小野球部の高校3年生。最終回、ツーアウト2、3塁で、見逃しの三振をしてしまうのだが…。

私
『金魚』

「一人で川に遊びに行ったらいけんで、ええな――」

遠い日の祭りの夜、一緒に出かけた友だちは翌朝遺体で見つかった。年忌止めの三十三年後、帰省して息子と同じ夏祭りに出かけた42才の父親

わたし
『べっぴんさん』

「おばあちゃん、毎年楽しみに待ってたのかなあ。誰かが泊りに来るのを」

93才で大往生をとげた祖母の葬儀で懐かしい顔が勢ぞろいした。祖母が施してくれた夏休みの“お化粧”の思い出ばなしが胸に沁みる41才の主婦

雅也
『タカシ丸』

「だめだ、まだお父さんは死んでないのに、死んでほしくないのに、こんなふうに泣いちゃだめだ」

夏休みの宿題の工作のために末期ガンの父親が一時帰宅した。記憶のなかの海辺の風景とともに進水する手作り模型の船をみつめる小学4年生の少年

なっちゃん
『虹色メガネ』

「似合うよ、なっちゃん」「ほんと? そうかなあ、自分だとよくわからないけど…」

初めてメガネをかけて、“メガネちゃん”ってあだ名がついたらどうしよう……となやむ小学3年生の女の子