●第5位
ネットが負けるほうに賭けるのは愚かだ。なぜならそれは、
人間の創意工夫と創造性の敗北に賭けることだから。── エリック・シュミット
Betting against the net is foolish because you're betting against human ingenuity and creativity.──Eric Schmidt

グーグルのCEOエリック・シュミットの言葉ですが、このbet againstという言葉は「何々が負けるほうに賭ける」という意味です。
本書ではこの言葉のひとつ前に、「Don't bet against the internet.」という言葉もあげておいたのですが、なぜインターネットに負けるほうに賭けることは愚かなのか?
インターネットはひとりひとりの個の可能性、人間の創意工夫とコミュニケーションの可能性を一気に広げるからです。情報が力となり、同じような志向性をもった人がつながったりすることで個の創造性は強化され、さらには個が世界にむかって発信することだってできる。
それは西海岸を中心としたムーブメントの根底にある確信でもあります。

著者・梅田望夫氏
そういう強力なツールが表れたにもかかわらず、「オレはネットは嫌いだ」「旧世界のほうが好きだ」と言い張っている人たちもいる。
そういう人にたいして、インターネットが負けるほうに賭けるのは、人間の創造性の敗北に賭け金をおいていることと同じだよ、と指摘するのです。
この言葉は、なぜインターネットの可能性に僕たちは興奮し続けてきたのか、その理由を短い言葉で明確に示すもので、深い共感を覚えたのです。
次の第4位はこれです。
●第4位
シリコンバレーの存在理由は「世界を変える」こと。
「世界を良い方向へ変える」ことだ。
そしてそれをやり遂げれば、
経済的にも信じられないほどの成功を手にできる。── スティーブ・ジョブズ
Silicon Valley is all about changing the world. It's all about changing the world for the better, and if you do that, you can be incredibly successful economically.
──Steve Jobs

先に、シリコンバレーの思想的背景、反体制のカルチャーを紹介してきたわけですが、これは経済という観点からみたシリコンバレー精神の核心を突いた言葉です。
Apple、Google、eBay、Intel、Yahoo、Ciscoなど、次々と世界を変えるような会社がシリコンバレーから生まれ続けているのはなぜか?
シリコンバレーでは起業がしやすい、優秀な人材が集まっている、スタンフォード大学のようないい大学もあるから、といったいろんな説明の仕方があるでしょう。けれども、起業のしやすさといえば日本だってかなり改善されてきたし、優秀な人材が集まってるといえば東海岸だって、東京だって中国だってすごい。それにトップクラスの大学機関なら世界のあちこちにある。
では何がシリコンバレーの特異性を担保するかというと、このスティーブ・ジョブズのロジックに、その秘密があるのです。

まず、「シリコンバレーは世界を変える」と宣言する。「make the world a better place」という精神。For the better の意味することは、これまで説明してきたように、個々人の能力がエンパワーされる、それによって世の中がよくなる、という信念です。
で、この後半に、you can be incredibly successful economically. と急にお金の話に結びつくわけです。ここがシリコンバレー・イデオロギーの神髄です。
世の中をよりよい方向に変えるという事業をなしとげれば、サクセスしてミリオネアになれるぜ、というロジックです。これはシリコンバレー嫌いな人たちが目の敵にするロジックでもあるのですが、単なる拝金主義ではないとぼくは思っています。
シリコンバレーでは、お金をファーストプライオリティにしているようでいて、実は大成功している会社ほどそうではない。頑張って世の中のためになることをしたら、economicallyに成功していいんだと、成功した先輩たちが言ってくれると、「そうか自分も同じようにやろう」とみんなが疾走することができる。社会全体が明るくなってくる。そういう文化なのです。
日本では、社会的に非常にいいことをやってきた人が成功してお金持ちになっても、あまりそれを言いたがりません。優秀な人がその能力を活かして社会に還元することはとてもすばらしいことなのに、そういう人ほど能力のないふりをする。勉強するのが好きな人も、なぜか勉強していることを隠したがりますね。
そういう空気はいやだなあと思う。
こういうことの対極にある世界というのが、僕がシリコンバレーに憧れた一つの要素でもあるのです。
さて、そろそろ佳境に入ってきました。
第3位もスティーブ・ジョブズの言葉です。
●第3位
君たちの時間は限られている。
その時間を、他の誰かの人生を生きることで無駄遣いしてはいけない。
ドグマにとらわれてはいけない。
それでは他人の思考の結果とともに生きることになる。
他人の意見の雑音で、自分の内なる声をき消してはいけない。
最も重要なことは、君たちの心や直感に従う勇気を持つことだ。
心や直感は、君たちが本当になりたいものが何かを、
もうとうの昔に知っているものだ。
だからそれ以外のことは全て二の次でいい。── スティーブ・ジョブズ
Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma─which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of others・opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.──Steve Jobs

これはジョブズがスタンフォード大学の卒業生たちに向けて行ったスピーチの一節です。ネットのうえで全文が読めますが、癌から生還してきたジョブズが語った、全世界で感動を呼んだ言葉です。
これを本書では、大人の流儀の中で取り上げましたが、大人が若い人にどう接するかは非常に大事なことだと思います。大人が若い人を励ます言葉を積極的に発するのは本当に大切なことです。


偉大な仕事をする唯一の方法は、あなたがすることを愛することだ。
まだ見つかってないなら探し続けろ。落ち着いちゃいけない。
まさに恋愛と同じで、見つかればすぐにそれとわかる。
そして素晴らしい人間関係と同じで、年を重ねるごとにもっと良くなる。
だから見つかるまで探し続けろ。探すのをやめてはいけない。
── スティーブ・ジョブズ
The only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it. And, like any great relationship, it just gets better and better as the years roll on. So keep looking until you find it. Don't settle. ──Steve Jobs

己の時間は限られているからこそ、若いときに妥協せずにやるべきこと、やりたいことを徹底的に行う。自分が愛することができるようなことを徹底して探せというメッセージです。
この英文は丸ごと読んで覚えてしまうといいと思います。文藝春秋の特設サイトにもリンク集があるので、ぜひ原文にあたってみてほしい。
僕はネットで毎日、本の感想を読んでいますが、このジョブズの言葉を取り上げる人が若い人ではとても多い。本書では、僕が47歳になるまで、いろんな経験を積む中で出会った言葉をたくさん選んだのですが、若い人にはこの卒業式のスピーチが一番心に響くようです。
大学生や20代前半では、まだ世の中にないものを生み出そうとして本当に苦労したことのある人が少ないからだと思います。僕も20代の頃はそうでした。
第2位は同じジョブズの言葉ですが、こちらは本気で何かを生みだそうと壁にぶつかった人に深く響くでしょう。
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