『ウェブ時代 5つの定理』刊行記念 梅田望夫講演会録「僕はこんな言葉に未来を見てきた―make the world a better place―」2008/3/15(土)14:00〜15:30 八重洲ブックセンター本店にて
こんにちは。梅田望夫です。今日は『ウェブ時代 5つの定理』の刊行記念講演会にお集まり頂き、ありがとうございます。『ウェブ進化論』を2006年に出してからちょうど丸2年が経ち、この本は6冊目の著書となります。
僕は常々、本は人ひとりひとりを映し出す鏡だと、思っています。これまで、読者の方々のウェブ上の感想を2万5千件以上読んできましたが、あらためて思うのが、どれ一つとして同じ感想はないということです。この本は発売されてまだ二週間ほどですが、今までの著作と比べてもさらに、「どの部分に惹かれたか」が人によってかなり違っています。どの名言がどう心に響いたたかに、いまのその人の仕事や人生経験がくっきりと映し出されているからです。
今日は、本書に収められたビジョナリーたちの金言の中から、僕の現在のベスト10を発表していこうと思います。みなさんも自分自身にとってのベスト金言を思い返してみてください。僕のベストといくつ重なるでしょうか。
第10位から順に名言を取り上げながら、この本のエッセンスをご紹介したいと思います。
●第10位
まず第10位は、グーグルの創業者の言葉です。

いま、世界は(以前とは)まったく違う。それは、君たち一人ひとりが
世界中のどんなことについても「情報を得る力」を持ったからだ。
私が学校に通っていた頃と、本当にまったく違う世界だ。── サーゲイ・ブリン
Today, the world is very different, because each of you has the power to get information about any subject in the world. And that is very, very different from when I went to school.──Sergey Brin

僕の本業は経営コンサルティングですが、2002年くらいから僕の職業をかけて、グーグルがまだ公開企業でないころから、この会社が世の中を変えるに違いないとクライアントたちに話し続けてきました。
なぜグーグルが革新的なのか、この会社の根源的な思想をもっともよく表しているのが、創業者サーゲイ・プリンのこの言葉です。1973年生まれの彼が、若い高校生に向けて行った講演の中の一説です。

「世界中のどんなことについても『情報を得る力』」を君たちは持つ。グーグルが台頭し、情報が完全に整理されるようになった。個にとって、以前とはまったく自由度が違うすばらしい世界にいるんだよと語るわけです。
この言葉の根底にあるのは、情報を得る力を持つことによって個を徹底的にエンパワー(empower)するというシリコンバレーの思想です。すべてのことに関して自由に情報が得られることき、個は大きな力を得ることができます。

しかしこういう世界は、一方で、すごく厳しいことを個に課します。目の前にたくさんの選択肢がおかれると、人口の80%の人は何にも選択できなくなるという実験結果もある。つまり世の中全体の10%くらいの、自分で自分の人生を開拓していこうというやる気のある人にとっては画期的なツールとなる一方、8、9割の人は、膨大な情報を前に右往左往してしまうからです。
それでも、今できない人たちも教育やツールの進歩によって、そういう自由を力に変えて、より多くの人が一歩一歩向上していく未来、それは絶対にいいことだという考え方がここにはあります。 本書の表紙には、「Make the world a better place」という言葉が入っています。「世の中をよりよい方向に変える」――こういう言葉を出した瞬間に、日本ではうさん臭い印象でとらえられがちです。
しかし、シリコンバレーで「よい方向」といったとき、政府や大会社しかできなかったことが個人に解放されることを意味します。個を徹底的にエンパワーしていくことこそ世界をよくするという哲学がある。

日本では、「グーグルは、あれだけの情報を押さえてどう管理をしようとしているのか」といった危惧をもつ人が多い。もちろん、いまのグーグルの経営者がダークサイドに落ちてしまう可能性はゼロではないにせよ、彼らの背景にある経営思想を理解すると、個を管理しようという発想の対極にあることは明らかです。
無論、グーグルのやっていることに対する賛否両論はいろいろあって当然ですが、個の徹底的なエンパワーを目指した会社が創業から9年で、いま世界でもっともホットな会社として浮上してきていることは、事実として認識しておくべきことだと思います。
第9位は、サン・マイクロシステムズの創業者、ビル・ジョイの言葉です。
ここでも個人への信仰が表れています。
●第9位
世界を変えるものも、常に小さく始まる。
理想のプロジェクトチームは、会議もせず、
ランチを取るだけで進んでいく。チームの人数は、
ランチテーブルを囲めるだけに限るべきだ。── ビル・ジョイ
World-changing things always start small. The ideal project is one where people don't have meetings, they have lunch. The size of the team should be the size of the lunch table.──Bill Joy

どんなに大きな世界を変えるようなことも、始まりは常に小さい。
何かをはじめようと思ったとき、「お金がこれだけなきゃいけない」「これだけのマンパワーがないとできない」という人たちが多い。でも世の中を変えてきた多くの革新的な技術や仕組みは、たった一人の発明や数人のチームによって生み出されたケースがほとんどです。
本当に新しいすばらしいものを生み出すには、ものすごく情熱をもった人が数人集まって、会議なんてしないで、ランチを一緒にとって話をして、ランチテーブルを囲めるくらいの人数で全力疾走するときにこそ、大きなものが生まれてくる。
これは個の力への強い信頼であり、励ましの言葉ともいえます。自分ひとりで何かを興す、それを面白いと思って一緒に走ってくれる人が加わって、大きなことを成し遂げることにつながっていく――それがすべての始まりだという言葉です。
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