著者プロフィール

津田大介(つだだいすけ)

メディア・ジャーナリスト。ツイッターを使って、各種のシンポジウムや審議会を実況中継する手法をいち早く開拓。ツイッターを使い実況中継することがウェブ上で「tsudaる」と表現されるようにまでなる。1973年生まれ。主な著書に『Twitter 社会論』(新書y)などがある。Twitter上の名前はtsudaである。web : http://xtc.bz/

日本のツイッターノミクス

日本でもツイッターの利用者がついに300万人を超えた。ビジネス雑誌や週刊誌が大特集を始め、書店をのぞいてみても、ツイッター関連本のコーナーが設けられるようになった。

そうした中で出版されるこの本『ツイッターノミクス TwitterNomics』は、凡百の「ツイッターをどう使えばいいか」といったマニュアル本とは、まったく違った大きな価値を日本の読者に運んでくれる本だ。

なぜならば、この本はツイッターそのものではなく、ツイッターに代表されるようなウェブ2.0によって花開いた様々なツール―─ブログやSNS、ウィキ、ポッドキャスト、ソーシャル・ブックマーク―─などによって、僕たちの住む世界のルールがどう変わったかを、その先進国アメリカの事例をもとに、わかりやすく書いた解説書だからだ。単なる評論家的な解説にとどまらず、長年、オンラインの経験をオフラインの人間関係や自らのキャリアに活かすことを身をもって実践してきた著者のノウハウがたっぷりと詰め込まれているのもポイント。今後、個人や企業がオンラインで活動する際の貴重な「バイブル」になることは疑いがない。

本書の全体を通して流れるテーマは基本的にたった一つだ。それは「デジタル技術とソーシャル・メディアが発達したことで、我々の社会に従来型の市場経済(マーケット・キャピタル)とは異なる指標を持つギフト経済(ソーシャル・キャピタル)が誕生し、両者が猛烈な速度で収斂(しゅうれん)しようとしている中、個人や企業は後者といかに向き合い、活かしていくべきか」ということである。

その際に著者のタラ・ハントが核となる概念として用いているのが「ウッフィー」だ。

『マジック・キングダムで落ちぶれて』という小説のなかにある仮想の通貨。それは、他人に対して善行をおこなうことで蓄積されていく。そしてその世界では、すべての決済は「ウッフィー」でおこなわれる。

著者のタラ・ハントは、ウッフィーがどのような価値を持つか、第1章で端的に表現している。

<やっぱりお金は必要だ。二ドルなければミルクも買えない。ただ、オンライン・コミュニティでは二ドルに同じ価値がないことは覚えておいてほしい>(本書15ページ)

従来の市場経済の重要性は認めつつ、オンラインの世界にはいわゆる市場経済とは違う経済があり、それがリアルの世界を動かす影響力を持ちつつあるということを本書では指摘しているのだ。

<何よりも肝に銘じるべきは、オンラインに行くのは「つながる」ためだということ。人と人のつながりができ、交流が深まってくれば、やがて信頼関係が生まれる、そしてこれこそが、ウッフィーの基盤になるのである>(本書54ページ)

つまり、一見何の得にもならない行為が、結果的にビジネスやキャリアにめぐりめぐってプラスに働き、最終的にはお金につながっていくということだ。このフレーズだけ抜き出すと、出来の悪い自己啓発書の一節に見えなくもないが、本書をここまで読んできた人であれば、オンラインの世界では「オープンであること」と「見ず知らずの他人と対話・コラボレーションすること」が最重要視され、それらが新たな価値を生み出し、個人や企業の評価に直結しつつあることが実感として理解できるはずだ。

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