無理

奥田英朗

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インタビュー本の話10月号より

書かねばならなかった地方都市の群像劇

――今回、『最悪』『邪魔』に続く、群像劇『無理』を新たに書こうと思われた何かきっかけはあったんでしょうか。

奥田

奥田英朗さん顔写真何年か前に日本中を旅したことがありまして、そのときに地方があまりにも疲弊(ひへい)してるのを実感したんです。画一的になって、郷土色みたいのはほとんどなくなっているんです。駅前商店街がみんなだめになっている。国道に量販店がずらっと並んで、大規模ショッピングセンターがあって……。そこに全部、映画館も遊戯施設も何もかも全部集まって、観覧車まであるという同じような景色が、どこへ行ってもあるんです。そのとき地方の何か虚しい繁栄みたいなものを見て、こういうところで暮らすのはつまらないんじゃないかと、勝手にそう思ったんです。まあ東京に住んでる人間の偏見かもしれないですけれど。あと大型店舗が入ると個人商店は全部だめになってしまうらしいんですよ。個人がどんどん追い込まれていきます。田舎に対する憧れはあるんですが、地方都市はほとんど魅力がないんじゃないかと。今度、群像劇をやるときは地方を舞台にしようかなあと思っていたんです。今回それを書いたわけです。

――では、前の二作とのいちばんの違いは地方を舞台にしたということですね。

奥田

そうですね。あと、僕が生まれたのは岐阜で、いまも実家が岐阜にあるんですけど、ほんとに魅力がなくなってるなっていうのを感じますね。もう目指すものがないっていうか。ここで成功して何になるんだろうという、地方には人をつなぎ留めるなんか魅力みたいなものがまったくなくなっています。東京にはいっぱいあるコンテンツが地方にはまったくないということ、それは気の毒だと思いますね。こんなことをはっきり言っていいのかどうかわからないですけど。

――逆に地方がみんな東京みたいになろうとしても、結局、何も生まれないということでしょうか。

奥田

いま日本が歩んでる道というのは、たぶん引き返せないと思うんですよね。昔にもどれるかというと、もどれない。このままいくしかないんだろうけれど、いろんな弊害を生んでるんだということは、みんなちゃんとわかっていないといけないし、作家も伝えなきゃいけないと。

――『無理』では、おもな登場人物というのが五人いて、それぞれの視点で描かれていますね。

奥田

「ゆめの」という町を表す、様々な立場のいろいろな年代の人を選びました。群像劇というのは言ってみればオムニバス映画のようなものです。だからべつに登場人物が全員からまなくてもいいと思いましたし、それぞれのエピソードを積み重ねれば、ゆめのという町全体のことが描けるのじゃないかと思って書いたわけです。

――では、個々のキャラクターはどのように選んで決めていかれたのでしょうか。たとえば、最初に登場する市役所勤めの社会福祉事務所の男とか。

奥田

地方が抱え込んだ問題とは何だろうと、いろいろ考えているとき、以前「生活保護世帯が異様に多い」というのを何かで読んでいたのを思い出したんです。そのことを書こうとして、社会福祉事務所の職員を登場人物に選びました。

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