INTERVIEW#07 神は細部に宿る Number 編集部 寺島 史彦

私の入社理由

いい人」がいる文藝春秋

あれは小学校6年生の時だったと思います。父が知人にもらったチケットで、神宮球場にプロ野球観戦に行きました。ただ試合開始間もなく、「ここはカメラマン席。入っちゃだめだよ」と言われて、帰宅するハメに。その数日後、「Number」というスポーツ雑誌が送られてきました。父の知人は文藝春秋の社員で、僕と父が座ったのはNumberのカメラマン席だったそうです。事の顛末を聞いたその人が、子どもに申し訳ないことをした、と雑誌を送ってきてくれたのです。

それ以来ずっと、Numberが届くようになりました。ラクロス部に所属し、練習漬けで勉強はまったくしなかった大学時代にも、僕の手元にはNumberがありました。就職活動をするにあたって、僕に雑誌を送り続けてくれた「いい人」がいる文藝春秋で働きたい、と思ったのはとても自然なことでした。

今の仕事
について

現在までの経歴

  1. 2009年3月 入社
  2. 2009年4月 雑誌営業部
  3. 2010年4月 営業推進部
  4. 2011年4月 週刊文春編集部
  5. 2015年7月 書籍営業部
  6. 2016年7月 雑誌営業部
  7. 2019年7月 ナンバー編集部

野球、サッカー、ラグビー、競馬、プロレス、ゴルフ……。ありとあらゆるスポーツを扱う「Number」編集部に所属し、アスリートのインタビューや、名勝負の裏側に迫るノンフィクション、徹底的にデータを読み解くページなど、ライター、カメラマン、デザイナーとガッチリとスクラムを組んで誌面を作る日々を過ごしています。連載やWEB記事なども担当し、たまに自分で原稿を書くことも。

STORY 01

現在の仕事のやりがい

スポーツ全般が好きな僕にとって、日々更新されていくシーンを追いながら、Numberで「このアスリートの、こんな話を載せたい!」「この名勝負の裏側を紐解きたい!」と企画を考えるのはメチャクチャ楽しい作業です。でも、それ以上に楽しいのは、その企画をページにしていくこと。編集者はカメラマン、デザイナー、ライターと一丸となって誌面のイメージを練り固めていき、それを具現化するべくディレクションしていきます。

ページが想像通りの出来栄えになった時も、もちろん嬉しいですが、最大の醍醐味は、そのイメージを超えるものが出来上がったときです。大袈裟ではなく、頭の中が沸騰するほど興奮して、笑えてきます。カメラマンの躍動感あふれる写真に「やべぇ!」と叫び、デザイナーが仕上げたズバ抜けて格好良いレイアウトに「かっけぇ!」と唸り、ライターが書き上げた熱のこもった文章を「凄ぇ……」と呟きながら、噛みしめるように読む。自分が携わるページに三拍子が揃っていくさまを最前線で感じられる幸せは何事にも代えがたいですね。そして、実はそんな瞬間に頻繁に出会える。それがNumberのやりがいだと思います。

STORY 02

これからの目標や夢

Number1010号の将棋特集で、北野新太さんに書いて頂いた棋士・佐藤和俊七段のインタビュー記事「不惑の青春」はこう結ばれます。
 苦労を重ねても、遅れてやってきても、一瞬でも流星群の中で輝きたい。夢を抱いて星々を見上げている棋士もいる。〟
 藤井聡太二冠フィーバーに日本中が沸く中、彼にスポットを当てた理由は、まさにここにありました。

佐藤七段はこれまで、華やかなタイトル戦とは無縁で、注目される存在ではありませんでした。それでも30代後半から頭角を現し、現在42歳にして全盛を迎えつつある棋士です。あらゆるスポーツで華やかな勝者となれるのは一握りです。僕は勝者に挑み、敗れてなお立ち上がる人々や、挑むことすら叶わずとも歩みを止めない人々の物語に光を当てていきたい。それはスポーツに限りません。あらゆるジャンルに「星々を見上げている」人々のドラマは転がっているはずです。Numberから離れることがあったとしても、会社人生最後の日まで、日の当たらない場所に隠れた物語をすくい上げていきたいです。

STORY 03

どうして将棋特集をやろう
と思ったのですか?

棋士は何時間もの間、将棋盤の前に座り、脳をフル回転させて戦います。どんな一局にもドラマがあり、盤を挟んだ魂のぶつかり合いがある。なにより、将棋には必ず勝ち負けが伴います。それはNumberが描いてきたスポーツの世界と相通ずる。だからNumberのフォーマットに将棋を落とし込んでも違和感はないだろうな、というのが第一感でした。実は、棋士はこれまでも登場したことがありましたから、ハードルもそこまで高くなかった。

もともと僕は将棋好きなので、何度か会議で将棋の企画を提案していました。編集長もいつか将棋を取り上げたい、と考えていたそうです。2020年6月、藤井聡太さんの最年少タイトル獲得が現実味を帯びてきたタイミングでGOサインが出て、デスクを務めることになりました。発売までの長い道のりはこのスペースでは到底書き切れませんが、結果としてこの号は3度の増刷を重ね、多方面で話題になったのは編集者冥利に尽きますね。

STORY 04

今後、どんな特集のプランを
考えていますか?

「スポーツやってないから、特集を組むのが難しいでしょ?」
 ほとんどのスポーツがコロナで開催中止となっていた時期、よくこう声をかけられました。正直に言うと、僕は結構ポジティブに捉えていました。

もちろん顔を突き合わせたインタビューは減りましたし、なにより撮影ができないとなると、Numberにとっては痛い。でも一方で、今までは考えたこともなかったZoomなどのツールを使ったリモートでの取材が増えたことも、海外でプレーする選手のインタビューがしやすくなるなど、取材の選択肢が増えた、という考え方もできる。厳しい状況に置かれたからこそ、新しいことにチャレンジする気運も高まっていると思います。将棋号もそのひとつと言ってもいいかもしれません。

これからやりたい特集は山ほどあります。具体的にはネタバレになるので挙げられませんが、今までにない競技はもちろん、しばらく特集を組んでいないスポーツやチームを丸ごと一冊で取り上げてみたいですね。

ON OFF

1週間の仕事の時間配分

オフの1日

休日はひたすら2歳の娘と遊びつつ、競馬に勤しんでいます。最近、娘が競馬中継を観ながら「パッカパッカ」と言うようになり、とても微笑ましいです。娘が寝たあとは溜まりに溜まった本や映画、ドラマを消化します。

文藝春秋を一言で表現するなら

右の本格派

忘れられない一冊

辺見じゅん『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』

シベリア抑留という悲劇の中にあった物語。予想もしない結末は、現実に起こったことなのか、疑いたくなるほどです。無名の人々に光を当てた、ノンフィクションの粋が詰まった作品です。

「Number」で
何を伝える、
なぜ伝えるのか。

雑誌が売れない「雑誌不況」と言われて久しいですが、アントニオ猪木の言葉を借りれば「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」(ビンタ付き)です。不況だから失敗したら大変だ、ああしよう、こうしようではなく、ただただ、ありったけの熱を込めて面白い雑誌を作る。その軸だけはブレないようにしたいですね。

とはいえ、今の時代、「紙でしか」伝えられないものはありません。極論をいえば、どのような形でも読んでもらえれば嬉しい。

もちろんNumberは紙で読むことに最適化されたグラフィック誌なので、その内容を最大限楽しんでもらえるのは紙であることは間違いありません。電子版を、紙と同じクオリティで見せられる方法があればいいのですが、それはまだ先のことになりそうです。紙はたぶん想像以上に、優れたメディアなんです。もし電子版で「これぞ!」という雑誌があったら、紙で印刷されたものを手に取ってみてください。たぶん、違う景色を楽しんでもらえると思います。