INTERVIEW#06 速さは価値を生む 文藝春秋編集部 兼 
文藝春秋digital
村井 弦

私の入社理由

祖父の本棚にあった「文藝春秋」

祖父の家の本棚にいかにも難しそうな分厚い雑誌が並べられていたことをおぼろげながら覚えています。その雑誌はなぜか実家にもありました。しかし、見るからに難解そうだったので、小さい頃は手に取ったことさえありませんでした。大学時代の私はやることもなくヒマだったので、実家の本を片っ端から読んでいました。そして、この分厚い雑誌と再会しました。読んでみると、「ゴツイ見た目の割に案外、難しくないな。結構面白いじゃん!」。これが「文藝春秋」との初対面でした。就活の時には、「あの分厚い雑誌を作っている会社」という印象を持っていました。しかし、文春の刊行物については正直あまり詳しくなかったので(笑)、「『文藝春秋』を作りたい」と志望動機を述べました。

入社して驚いたのは、こんな難しそうな雑誌を作っているクセに、あまりにもテキトーな(いい意味で)社員が多かったことです!

今の仕事
について

現在までの経歴

  1. 2011.03月 入社
  2. 2011.04月 週刊文春編集部
  3. 2015.07月 文藝春秋編集部
  4. 2019.07月 文藝春秋digital(兼務)

もともと月刊「文藝春秋」の編集者ですが、今は「文藝春秋digital」のディレクターをしています。具体的には月刊誌「文藝春秋」のウェブ定期購読サイトの運営と、オリジナル記事の編集です。創刊して約100年の雑誌をネット上で多くの人に読んでもらうべく、試行錯誤を繰り返しています。

STORY 01

現在の仕事のやりがい

2019年11月から、文藝春秋digitalという月額900円のサブスクリプションサイトの運営責任者を務めています。月刊誌「文藝春秋」をひろく若い世代に読んでもらうため、メディアプラットフォーム「note」のシステムを使って展開しています。

記事のサムネイル(※記事の頭についている画像のことです)を工夫する。読みたくなるような記事のサマリー(要約)を書き加えてみる。……「高齢読者が多い」と言われる文藝春秋ですが、工夫次第で、若い人にも読んでもらえるんだ——そういう実感を抱きつつ、日々仕事をしています。

STORY 02

これからの目標や夢

「言葉のプロ」と呼ばれるような人になりたいです。編集者になるために資格は必要ありません。だからなのか、たまに同年代の知人から、「このまま編集者を続けていて、将来何になれるの?」と言われたりもするんです。

しかし、「言葉を上手く扱えること」には、デジタル社会だからこそ、どんなスキルにも代えがたい価値があると私は考えています。「若者の活字離れ」という言葉を最近よく耳にします。しかし、私はそうは思いません。むしろネット空間の出現によって、私たちは昔と比較して遥かに厖大な活字と接しています。そして、誰でも発信することが可能なネット空間では、「良質」と言える文章はごく僅かです。そんな時代に、正確な日本語を使って文章を書くトレーニングを続けてきた人材は必ずや重宝されると、私は信じています。

文藝春秋は、言うなれば「言葉のプロ集団」です。この会社の仕事を通じて今後も自分の「言葉力」を高めていきたいと考えています。

STORY 03

今回なぜ自社でサイトを作るのでなく、noteを選んだのですか?

そもそも「文藝春秋digital」は、「文春オンライン」とは異なり、有料課金サイトとしてスタートする必要がありました。しかし自前で課金サイトを構築するにはお金も時間もかかるため、「速く」始めることのできるnoteを選びました。「速さ」は価値を生むからです。

また、noteは「活字文化への愛がある」というマインドが文藝春秋と近いことも、選んだ理由の1つです。作り手にも読者にも「活字が好きな人」が多くいるプラットフォームで展開することが、成功への近道であると判断しました。

STORY 04

紙とデジタルの違い、それぞれの面白さとは?

デジタルでは「文字」以外の手段で、表現の幅が広がることが最大の特徴です。例えば、写真を多く使える。動画を使える。関連リンクを張れる。場合によっては音声や音楽をはめ込むことができる。より重層的な活字体験ができるようになるのです。

一方で、紙の雑誌には「モノ」としての付加価値がある。それはデジタル時代だからこそ、いっそう高まっていると感じています。ウェブをメインに文章を書いている人の夢は何だと思いますか? ほとんどの人が「自分の文章が紙の雑誌になる、紙の本になること」と答えるんですよ。

出版社の強みは紙の本を作れること。その強みを生かすために、デジタル⇆紙が相互にリンクするようなコンテンツ作りをしたいと思っています。

ON OFF

1週間の仕事の時間配分

オフの1日

もちろんパソコンを見ている時間は長いのですが、社外での打ち合わせや、自分でイベントなどに登壇することも多くあります。先日はnote感謝祭というイベントにパネリストとして参加しました。また普段ウェブばかり見ているので、意識的に紙の本を読むように心がけています。

文藝春秋を一言で表現するなら

典型的な
モノづくり
企業」

忘れられない一冊

柳田邦男『犠牲 わが息子・脳死の11日』

担当しているノンフィクション作家の柳田邦男さんが1995年にお書きになった本です。「生と死とは何か」ということを深く考えさせられました。時代を超えて読み継がれるべきノンフィクション作品だと思います。

「文藝春秋digital」で
何を伝える、
なぜ伝えるのか。

これからの編集者にとって大切なのは、「読者一人ひとりと対話する感覚」です。大きなメディアの内部にいると忘れがちですが、私たちが作る記事の向こう側には、読者がいます。仮に記事が売れたならば、それは「“一本売れた”ではなく“一人が買ってくれた”」と思うようにしています。この1 to 1の感覚こそ、出版社のDXにとって大切なことだと私は思っています。

そういう思いから、noteでサブスクを運営すると同時に、最近は音声メディアVoicyで「文藝春秋channel」というインターネットラジオ番組も配信しています。私自身がパーソナリティとなって、記事や本にまつわる話をし、リスナー(=読者)と双方向のコミュニケーションを行っています。

デジタル技術が発達したことによって、読者との対話のハードルは格段に下がりました。その利点を存分に生かし、読者と積極的に対話しつつ、コンテンツを配信していきたいと思っています。