INTERVIEW#04 想像力。そして行動 文春文庫局 花田 朋子

私の入社理由

やっぱり本のかたちが好き

文藝春秋が雇用機会均等法で大卒女子を取り出してから二年目でした。実は自分の本棚はほとんど新潮文庫と角川文庫で、唯一あった文春文庫は沢木耕太郎さんの『テロルの決算』です。新聞社にも内定をもらっていましたが、やはり本というかたちが好きだったことが決め手になりました。同期は四大・短大含め女性が六人いましたが、社長から「お嬢ちゃん」と呼ばれたのが衝撃でした。今の文春は強い女性が多いので、そんな勇気のある男性はもういないと思いますが(笑)。

今の仕事
について

現在までの経歴

  1. 1988.03月 入社
  2. 1988.04月 出版部
  3. 1990.06月 文春文庫部
  4. 1993.04月 CREA 編集部
  5. 1994.04月 別冊文藝春秋編集部
  6. 1998.02月 第二文藝部
  7. 2007.04月 別冊文藝春秋編集部〔編集長〕
  8. 2011.04月 文春文庫部
  9. 2012.04月 文春文庫部〔部長〕
  10. 2014.07月 第二文藝部〔部長〕
  11. 2015.07月 文春文庫部〔局次長兼部長〕
  12. 2018.07月 文春文庫局〔局長〕

文春文庫局長として、毎月のラインナップ作成、対外交渉、広告やフェア関連の統括、カバー・帯の校了作業などが主な業務です。冊数は少なくなりましたが、本の編集もしています。

STORY 01

現在の仕事のやりがい

文庫編集部は出版社の総合力が最も問われる部署です。小説、エッセイ、ノンフィクション、女性誌、スポーツとあらゆる分野にわたって、雑誌で連載したり、単行本で刊行してきた作品の最終形態が文庫になります。今や各社が最もしのぎを削る主戦場が文庫です。

文春文庫は毎月約18点を刊行していますが、自社単行本の文庫化だけでなく、他社の本にも目配りし、売れる可能性を持つ本を文庫化する企画力も必要です。また、時代小説、ミステリー、キャラクター文芸など、文庫書き下ろしも増えています。帯で仕掛けることで大きく伸びた恩田陸さんの『木洩れ日に泳ぐ魚』や、皇后陛下の発言で大ヒットした執事ジーヴズ・シリーズなども、良作をそろえていたからこその成功なので、会社の「宝の山」を確実に文庫化しておくことが大事だと思っています。

STORY 02

これからの目標や夢

編集者なので、やはり、ベストセラーを出したいです。今は自分で担当して本を作ることは少なくなっていますが、単行本から文庫編集部に戻ってきた時に、若竹七海さんに13年ぶりに女探偵・葉村晶シリーズの新作を書いていただいたところ、ミステリー・ランキング入りしたり、テレビでカズレーザーさんが紹介してくれたりして、累計30万部の人気シリーズに育ちました。文春文庫のコーナーに行けば、あの作品が読める、あのシリーズの新刊が出るのはいつだろう、と読者が楽しみにしてもらえるような本を一冊でも多く出したいです。

STORY 03

女性局長として感じる使命は何ですか?

うーん……使命感とかはないです(笑)。ただ、子育て中は特に、周囲にサポートしてもらって仕事を続けてきたので、今は上長の立場として編集部のいろいろな立場にある人たちが働きやすい環境は作りたいと思っています。子育ても、保育園時代、学童保育時代、受験時代とそれぞれに大変なポイントがあるし、母親だけでなく父親も育児に参加できるようにしてあげたい。今の部署は育児中の部員が多いせいか、助け合っているし、ライフワークバランスがうまく行っていると思います。

STORY 04

文春文庫にしかない特徴を
お教えください。

「文藝春秋」は〈風呂敷のような雑誌〉と呼ばれます。真面目な政治経済ネタ、柔らかい流行りもの、小説の連載など、何でも包み込んでくれてフトコロが深い。「文春文庫」も同じで、面白いものなら何でもあり、のオールラウンドの文庫です。司馬遼太郎さん、藤沢周平さんをはじめとする時代小説の名作が版を重ね続けている一方、佐伯泰英さんを筆頭に時代小説書き下ろしシリーズも力を入れています。東野圭吾さん〈ガリレオ〉シリーズ、池井戸潤さん〈半沢直樹〉シリーズはもちろん、阿部智里さん〈八咫烏〉シリーズなどファンタジー分野にもベストセラーが生まれています。

海外ミステリーも毎年のランキングの常連です。エッセイ・ノンフィクションでは清水潔さんの「『南京事件』を調査せよ」から星野源さんの『働く男』まで硬軟とりまぜてのヒットがあります。最近では北川悦吏子さんの『半分、青い。』など映像作品のノベライズにも積極的にチャレンジしています。

ON OFF

1週間の仕事の時間配分

オフの1日

週2回くらいのペースでランニング。観劇と映画鑑賞はなるべくたくさん行きたいです。最近面白かった映画は『Search サーチ』。ドラマも好きで、原作ものはチェックするという名目でワンクール8本くらいは観ます。

文藝春秋を一言で表現するなら

楽観的で
マイペース

忘れられない一冊

東野圭吾『秘密』

文藝春秋で、それまでお付き合いのなかった東野さんに初めて依頼した書き下ろし長編です。原稿をいただくまでに三年かかりましたが、そのタイミングで出産することになり、焦りました。周囲のサポートで無事に刊行することができ、しかも今や大ベストセラー作家となった東野さんの快進撃のきっかけとなる作品になりました。

「文春文庫」で
何を伝える、
なぜ伝えるのか。

文庫は雑誌や単行本に比べて書店に置いてもらえる期間が長い。一方で昔に比べてレーベルも増え、毎月大量の新刊が投入される中で生き残っていける本には、必ず何か魅力があるはずです。いい本なのに地味であまり動かなかった文庫が、急に売れ出すと、「よくぞ気がついてくれました!」という気持ちになります。

著者が傑作を書いて人気作家になったり、映像化されたり、有名人が「面白かった」と発言してくれたり、きっかけは様々です。10.5×15.2センチのコンパクトでお財布に優しい「文庫」が読者に届くまでには、たくさんの人の手がかかっていて、実はすごく贅沢なものです! 小さな文庫の果たしている役割は大きいのです。