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著者インタビュー セカンドステージはここから始まる

――小説の舞台は、何処にしているんですか。具体的なモデルはあるんですか。

 架空の町です。実在しない場所にしたほうが、読んでいる人たちは物語に入り易いと思っています。自分の生活している場所の延長線上にあるという感覚で、読んで欲しいと思っています。物語の世界だけど、どこか現実とつながっていると思って頂けるものを書きたいんです。

――『夜行観覧車』のような事件が起こるケースでも、やはり生活の延長線上にあることを感じます。

 有難うございます。うちの家はどうか、お隣さんはどうかと自分自身のことに置き換えてもらえたら嬉しいですね。私の場合、親子で読んで下さる方が多いようです。読んだ後、ちょっと微妙な空気になりながらも感想を言い合ったなんて声も聞きます。親子であれ友達であれ、読んだ後で、誰かと一緒に話したいと思えるような小説を書きたいと思っています。

――今回は、全くタイプの違う三人の女性が主人公ですが、湊さんは誰が一番好きですか。

 作者ですから、みな平等に好きです(笑)。けど、読者の方は好みが分かれるでしょうね。

お別れするのが、つらかった……

――まさに三者三様ですからね。以前のインタビューで、書いている登場人物にすごく入り込むけど、次の章へ行ったら、その人のことはすっかり忘れると伺ったことがあります。

 今回だけは、次の章に行っても切り捨てることができませんでした。今までは、書いてきた人物に感情移入をしないと決めていました。特定の人物に肩入れし過ぎると、本来、あるべきものとか、見えるべきものが歪んでしまうと思っていたからです。でも、今回は……もう、大好きなんですよ、ここに出てくる人たちが。

――この三人の女性たちが。

 三人だけでなく、他の人物もみんな好きなんですよ。お別れするのが、つらかったです。

――今回の作品は、サプライズはもちろんあるけれど、それ以上に人間ドラマを書き込もうという覚悟を感じます。○八年にデビューなさって、これが七作目になりますが、これまでの期間を振り返ると?

 あっという間でした。デビュー作『告白』は、映画化されたこともあって、長い期間話題になりました。ですので、自己紹介するときに、「『告白』を書いた」と頭に付けたら分かってもらえました。でも、そろそろ別の冠を付けたいというか、付けないといけない。本屋大賞を頂いたときは、「五年後の代表作を『告白』にしないようにします」と言いましたが、五年もしがみ付いていてはダメだと思ったんです。それよりは新しい作品を期待していただけるような作家になりたい。私の作品ですから、きっと悪意とか刺さるような言葉が出てくると期待されている方も多いと思います。でも、『花の鎖』を読んで、あ、それだけじゃないんだ、と思って欲しい。いまがまさに作家としての転換期だと思っています。

――そういう意味で、『花の鎖』は転換期、いわばセカンドステージの第一作なんですね。

 はい。次の自分を引っ張ってくれる作品だと思っています。出来の良し悪しは自分では分かりませんが、とにかく大好きな作品です。ですから、たくさんの人たちに読んで欲しい。読んだ後で、誰かに「ありがとう」と言いたい気持ちが湧いてきたら、これほど嬉しいことはありません。
「本の話」3月号より