インタビュー

「主人公の声を聞くみたいにして書いた」

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新刊『勝手にふるえてろ』は、26歳のOL江藤良香(よしか)が、積年の脳内片思いと、突然訪れたリアル恋愛とのはざまで揺れ動く、恋愛小説です。3年ぶり、4冊目の著書となりますが、不器用なOLを主人公に小説を書かれたいきさつを、まず教えてください。

綿矢

前作を出した後、話をいろいろ作っては完成しない状態が続いて、ようやくこの話が、最後まですっと書けて作品になりました。経理課の女の子を主人公にしたのは、目立つ存在じゃないけれど、計算とかがちゃんとできて、仕事はきっちりしている人が面白いかなと思ったからです。お友だちに聞いた話や、取材をさせていただいて、主人公の生活のディテールを埋めていきました。

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中学2年の時から脳内で想い続けてきた元同級生の“イチ”、突然告白してきた同期の営業社員“ニ”。男の人物を“イチ”“ニ”として話が進むのが面白いです。

綿矢

名前って結構難しくて、この話は主人公の中でふたりの男の人の順位がつけられているから、イチ、ニにしました。主人公だけにとって、ふたりの男の人に対する考え方、思いがまったく違うあたりが話になるかなあと。思い入れを持たないほかの人から見たら、どっちの男の人も、そんなにお金持ちでも、カッコいいわけでもなく、ほとんど同程度なのに、ある人の中では順位がはっきりとついている。その妄想とか(笑)、内面やったら、書けるんじゃないかと思いました。主人公は、同期の営業社員“ニ”に、生まれて初めて告白をされて、〈私には彼氏が二人いて〉……と強く出ていますが、実際は26歳まで片思いしか経験がなく、リアル恋愛にとまどっている。

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人知れず混乱する良香の、内向きに葛藤する一人称で語られます。『インストール』、『蹴りたい背中』の女子高生が20代半ばになっている、そんな印象を受けました。ちょっと引きこもり気味の女子高生が、出社拒否気味のOLになっているような。

綿矢

本当に。意識していませんでしたが、同じ人間が成長して書いた感じの作品になりました。自分と違う人物として書いても、考えて書いているのは自分やから、自分と完全にかけ離れた思考ではないところは、どの作品でも言えますね。ただ、文章にすると盛り上がる。文章自体の意思が出てきて、ちょっと過剰な感じになります。主人公の良香は、ひねくれているんですけど、外面(そとづら)は普通です。言うこともすることも、凄く普通やけど、内面でいっぱい考えている子です。12年間にわたるイチへの片思いは、恋愛未満というか、現実の恋とは違う“思い入れ”みたいなもので、感情としては幼いのかな。

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絶えず見ていることを気づかれないよう、さりげなく視野の中に捉える“視野見”でイチを観察したり、中学時代の片思いぶりがおかしいですね。

綿矢

相手をよく知らないからこそ、好き勝手に妄想できるのは楽しいですよね。距離は離れていてもずっと観察していて、思い入れがある分、ある意味、相手のことをよく分かっている。相手の反応や動作を見ては、「ああ、これもオツだね」と、拒絶することなくすべて受け入れている、そういう好きになり方です。

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〈お店に入ってもどの服を買うかすぐに決められなくて、熟考しているうちにお目当てが売り切れてしまうタイプの私だけれど、中学二年生の教室ではたくさんのクラスメイトがいるなかで、イチを見つけた途端、すらりと好きになり、心のなかで即決で彼を買った〉。綿矢さんらしい、独特の筆致が今回も発揮されている。

綿矢

読み返すうちに、語感とか整えたくなるんですけど、少々やりすぎる傾向があるので、気をつけながらですね。推敲すると、リズムも出てきて文章的には読みやすくなりますが、手垢じゃないけど、書いた人の匂いがつくから、最近は加減を考えています。

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