国内・海外ミステリ2004


■海外作品■
アラフェア・バーク 七搦理美子訳 文春文庫
『女検事補サム・キンケイド』
★本書に寄せられた絶賛★
「力強いデビュー作である。……リーガル・スリラーの面白さは絶体絶命の崖っぷちに立 たされた主人公が起死回生の手にうってでるところにあるが、この小説にもそれがある」 ―――池上冬樹(週刊文春〈ミステリーレビュー〉2004年6月24日号)
「正義とは別の意味で、裁判制度のルールを利用した勝敗の行方を描くリーガル・スリラ ーの秀作といえようか」―――関口苑生(週刊現代〈特選ミステリー〉2004年7月10日号)
「タフな女性検事補がまたひとり、デビューを飾った」(日刊現代〈今週のミステリー〉2004年8月11日)
「サムの真摯な姿は、痛快感と強烈なるシンパシイを生む。嬉しいシリーズ・ヒロインの 誕生だ」―――児玉清(朝日新聞〈らくらくミステリー〉2004年6月20日)
「シリーズ作品の始まりとしては余裕の合格点だろう」―――神命明(ミステリマガジン2004年9月号)
「彼女が到達した真相の先には文字通り『衝撃のクライマックス』がまちうけていた。本 書のラストでは法廷ミステリをこえたサスペンス小説の醍醐味をあじわえるだろう」―― ―中嶋博行(「解説」)
●内容紹介
13歳の少女がレイプされ首を絞められたが、一命を取り留める。少女の証言で容疑者 を逮捕、オレゴン州地方検事補のサム・キンケイドは裁判の勝利を確信する。だが、弁 護側の巧みな法廷戦術によって検察側の証拠が次々とくずされる。そして一件単純に見 えた少女レイプ事件は、しだいに奇怪な姿をあらわし始める。(解説・中嶋博行)
●コメント
デビュー作となる本書は、マイクル・コナリー、スー・グラフトンなどから高い評価を 得た。主人公サム・キンケイドのシリーズ第2弾は2005年中に文春文庫より刊行予 定。著者の父親はエドガー賞受賞作家のジェイムズ・リー・バークだが、デビュー当時 の父親よりも力量は上とのもっぱらの評判。
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キース・アブロウ 高橋恭美子訳 文春文庫
『抑えがたい欲望』
★「解説」より★
アブロウは性的なものに対して祈りに近い思い入れがある。肉体関係が何か魂の触れ合 いであるかのような、まるで欠けた心と心がきちんと合わさるかのような行為として描 く。だから十分にエロティックでありながら、同時に、何らかの浄化をもたらそうとす る。それは主人公をはじめとして関係者のほとんどが幼いときに辛い体験をしているこ ととつながる。まるで精神と肉体の傷痕を確かめ癒そうとするかのような切実な行為に なるのだ。―――池上冬樹
●内容紹介
大富豪の家で生後5ヵ月の娘が殺される。容疑者は逃走中の16歳の息子だが、捜査を 助ける法精神科医クレヴェンジャーが話をきくうちに、家族全員に犯行の動機があるこ とがわかる。登場人物のすべてが心に深い傷を負い、その痛みが極限に達したとき、驚 愕のクライマックスが訪れる。やるせない心理サスペンス。(解説・池上冬樹)
●コメント
本書は、法精神科医フランク・クレヴェンジャー・シリーズの第3弾。主人公は少年時 代にアル中の父親から虐待を受け、母親は見てみぬふりをして愛情を注がなかった。そ れがトラウマとなり、デビュー作『悪夢のとき』(二見文庫)では酒と麻薬とギャンブ ルとセックスに溺れていたという経歴を持つ法精神科医。異色のキャラクター設定は、 デニス・ルヘインをして「弱さを持ち得たすばらしいヒーロー像」と言わしめた。本書 では、しばらく距離を置いていた警察の鑑定医に復帰し、傷ついた者にしか聞こえない 心の奥の叫びに共鳴しながら、事件を解決していく。著者はボストン在住の精神科医。
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D・W・バッファ 二宮けい訳 文春文庫
『遺産』
★「解説」より★
バッファは事件の背景にこれまでにないスケール感とサスペンスを打ち出すことに成 功した。―――三橋暁
●内容紹介
次期大統領を目指すカリフォルニア州上院議員が路上で射殺され、黒人医学生が容疑者 として逮捕される。大物政治家殺人事件の容疑者を弁護したがる弁護士は地元にはおら ず、被告側弁護人としてアントネッリに白羽の矢が立った。“ゆきずりの殺人”として 処理したい検察に対し、“陰謀”のにおいを嗅ぎ取ったアントネッリ。事件の鍵を握る 人物から、予想をはるかに超える罠の存在を知らされるが……。サスペンス度満点のリ ーガル・ミステリ。(解説・三橋暁)
●コメント
著者はシカゴ大学を卒業後、オレゴン州で弁護士を開業していたという法曹界出身の作 家。1997年弁護士アントネッリを主人公とした『弁護』で小説家としてデビューし、 以降、『訴追』『審判』(以上、文春文庫)とシリーズ作品を発表してきた。トゥロー、 パターソンらとともに、リーガル・スリラーのなかに人生を描く作家と言われる。 第4弾にあたる本書では、これまでのオレゴン州ポートランドから、カリフォルニア州 サンフランシスコへと物語の舞台を変え、アントネッリは政治的陰謀が影を落とす事件 に挑む。その一方で、出自の秘密を明かし、幼少期を過ごしたサンフランシスコで自ら の人生を振り返るなど、シリーズとしての物語の深みも増している。
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トマス・H・クック 村松潔訳(11月上旬刊行予定)
『孤独な鳥がうたうとき』
★「解説」より★
全部で5部構成になっている本作は、三人称主観視点で書かれている。ヒロインのセーラ・ ラブリオーラをはじめ、セーラの友人デラとその母親以外では、6人の男たちが、それぞ れの章の視点人物。しかも、それぞれ短い章立てだ。はやいテンポですいすいと読めてし まう。これまでの作品ではみられなかった手法だ。……正直なところ「記憶シリーズ」の ような手応えを生みだす形式とはいえない。ある種の軽みが感じられるほどだ。しかもハ ッピーエンドといっておかしくない結末である。けっして陰鬱で救いのない物語に終わっ ていない。とはいえ、中身はまぎれもなくトマス・H・クックの小説なのだ。―――吉野仁
★「訳者あとがき」より★
本書のセーラは少女時代に刻印された傷から逃れようとして男の腕のなかに跳びこみ、そ こでふたたび傷を負って逃げだすのだが、悪の権化のような男の追跡の手に怯えながらも、 なんとか人生を生きなおす希望を見つけようとする。探偵業を営むスタークは、そのニヒ ルで非常な見かけとは裏腹に、打ち砕かれた愛の幻影を抱えこんでいるし、なんの取り柄 もない中年のチンピラ、モーティは癌で余命三カ月と宣告されて、かぎりなくゼロに近い 自分の人生を哀しげに振り返る。どうしようもない人生、いつどっと崩れ落ちるかもしれ ぬ人生だが、彼らはそこにささやかながらも肯定できるなにかを見つけようとするのであ る。―――村松潔
●内容紹介
主人公は暗い過去を引きずって南部からニューヨークに逃げてきた38歳のセーラ。場末の バーで歌手として働いていた9年前、夫のトニーと知り合い結婚。しかし、義父のレオは、 地元ロングアイランドの悪党のボスで、なぜかやたらとセーラを支配したがる。トニーは 妻を愛しながらも、父には歯向かえない。 自由のない、いつも怖れてばかりの生活から勇気を振り絞って逃げ出す決心をするセー ラ。それを追う義父の手下たちと、父親に見つかったらきっと殺されるに違いないと心配 し、独自に部下を使ってセーラを探し出そうとする、夫のトニー。逃げるセーラとそれを 追う複数の男たち、セーラをかくまうナイトクラブのオーナー……。果たしてセーラは安 穏を手に入れることができるのか。(解説・吉野仁)
●コメント
物語は主な登場人物(7〜8人)の視点から交互に描かれ、短い章がテンポよく連なる 構成となっている。各々が暗い過去を抱えた登場人物たちの人生が、微妙に互いにクロス しあいながら、偶然と必然が縄のように絡まり、クライマックスへと向かう。「記憶」シリ ーズに代表される、従来の重く暗い作風から一転、「おおいなるハッピー・エンド」を追い 求めるヒロインと彼女をとりまく男たちの群像劇。
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ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳
『魔術師(イリュージョニスト)』
★「解説」より★
変幻自在のプロットで読者を手玉に取るディーヴァーがそうであるように、マレリック と自称する“魔術師”は、卓越したミスディレクションの技法とさまざまなトリックを駆 使して、観客の目と心を意のままに操る達人だ。イリュージョンとクロースアップ・マジ ックの名手であり、脱出とピッキングの上級テクニックを体得しているので、どんなに厳 重な警備でもあってなきがごとし。しかも、プロテウス・マジック(早変わり)を得意と し、年齢、性別、人種を問わず、瞬時にしてありとあらゆる人間に化けることができると いうのだから、これはもう――読者もお察しの通り――怪盗ルパンとか、怪人二十面相の 領域である。今までライムが相手にしてきた犯罪者の中でも、“コフィン・ダンサー”に 勝るとも劣らない強敵ではないだろうか?―――法月綸太郎
●内容紹介
ニューヨークの名門音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質を取ってリサイタルホール に立てこもる。駆けつけた警官隊が包囲し出入り口を封鎖するなか、ホールの中から銃声 が聞こえてきた。ドアを破って踏み込む警官隊。だが、犯人の姿はない。人質もいない。 ホールは空っぽだった……。
衆人環視のなかで犯人が消えるという怪事件の発生に、科学捜査専門家リンカーン・ラ イムと鑑識課警官のアメリア・サックスは、犯人はマジックの修業経験があることを察知 して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を要請する。奇術のタネを見破れば次の殺 人を阻止できる。しかし、超一流イリュージョニストの“魔術師”は、早変わり、脱出劇 などの手法を駆使して次々と恐ろしい殺人を重ねていく――。(解説・法月綸太郎)
●コメント
四肢麻痺の元NY市警科学捜査部長リンカーン・ライムを主人公とするシリーズの第5 弾。「デヴィッド・コッパーフィールドとハンニバル・レクターを合わせたような」犯 人を登場させ「これまでの作品のなかで最高の“どんでん返し度”を誇る」と著者が豪 語する、イリュージョンのようなミステリ。
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アラン・グリン 田村義進訳 文春文庫
『ブレイン・ドラッグ』
●内容紹介
脳の機能を活性化するクスリ、MDT−48。 ひょんなことからそれを手にした物書きエ ディは、服用して驚愕する。飛躍的に頭がよ くなるのだ! 煮詰まっていた原稿もたち まち仕上がり、乱雑な部屋も一瞬で整頓、話 術も冴え渡って酒席では注目の的。しかしク スリは無尽蔵ではない。いまのうちに一発儲 けるのだ――株で。シケた負け組から一挙に 勝ち組まで駆け上がるエディ。だが無論、う まい話にはとびきりヤバい落とし穴が……。
●コメント
オレにも一錠よこせ!――本書を読んだ 作家・池井戸潤さんの第一声。そうなのです。 これを服んだエディが次々に成功を連打す る前半の痛快さ! 頭さえよくなれば、人生 なんて楽勝さ――と妄想しがちな私たちの 「夢」がここにはあるのです。それが急転直 下、最悪の悪夢が群れをなして殺到してくる 後半。本書は、いまを生きる私たちには、ま ったく他人事じゃない夢と恐怖の物語。椎名 誠氏を筆頭に本好きたちを唸らせ、「本の雑 誌」上半期のベスト10に選ばれ、英国推理 作家協会最優秀新人賞の候補となったのも 不思議はない、一気読み必至の傑作。
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ジョン・ソール 加賀山卓朗訳 文春文庫
『マンハッタン狩猟クラブ』
●内容紹介
ニューヨークの地下鉄構内。地上の世界と 同じくらい広く、地上以上に錯綜し、永遠に 闇に閉ざされた迷宮。無実の罪で投獄直前の 青年ジェフを拉致した男たちは、彼をこの迷 宮で解放した。「地上へ逃げ出せば君の勝ち だ」と彼らは《ゲーム》の開始を告げる。負 ければ死――ジェフを追うのは重武装のハ ンターたちなのだ。異常殺人鬼とコンビを組 まされ、ジェフは決死の逃走を開始する。人 狩りの獲物となったジェフは、生きて地上へ 脱出することができるのか?
●コメント
徹頭徹尾、猛然たる疾走。これぞノンスト ップ・サスペンス。何の罪もない青年が、圧 倒的不利のなか完全武装の敵に追われる。そ んなシンプルな筋立てにアドレナリンをた っぷり充填、謎のハンターの正体探しの要素 も盛り込まれています。著者は人間の悪意を 隠微に描く名手として知られていますが、本 書では作風を完全に一新、ホラーが苦手な読 者にも安心しておすすめできます。ミステリ 雑誌「ジャーロ」のクオータリー・ベスト1!
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デイヴィッド・ローゼンフェルト 白石朗訳 文春文庫
『弁護士は奇策で勝負する』
●内容紹介
死刑囚の冤罪を晴らしてくれ。父のたって の頼みとあっては断れず、弁護士アンディは 再審裁判に挑む。状況はきわめて不利。しか も公判開始直後に父が急死、謎めいた巨額の 預金が発見された。父の過去に何が? 二つ の難事件を抱え込んだアンディを襲う陰湿 な罠、鉄拳脅迫、銃撃! でも彼はくじけな い。クセ者ぞろいのチームを率い、愛犬タラ を心の友に、不利な裁判と背後の巨悪をまと めてひっくり返す奇策を探すのだ!
●コメント
どうも最近の翻訳ミステリは、どぎつかっ たり小難しげだったりでなあ――とお嘆き のかたは本書を是非。つねにユーモアを忘れ ず、巨悪にも負けず、目指すは正義と真実。 そんなアメリカ・ミステリの本道を行くヒー ローに出会えます。かつてA・A・フェアや ペリー・メイスンに燃えたかたにも、とにか く楽しい本を読みたいというかたにもおす すめのMWA最優秀新人賞候補作。アンディ 君の次なる窮地を描く第2作も近日刊行!
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J・ロバート・ジェインズ 石田善彦訳 文春文庫
『万華鏡の迷宮』
●内容紹介
ナチス・ドイツに占領されたフランス、プ ロヴァンスの小村で、女の射殺体が発見され た。事件に挑むはフランス国家治安警察のサ ンシールとお目付け役たるゲシュタポの鬼 刑事コーラー。ありふれた殺しの背後には、 連合軍兵士脱出組織の謎が、そして戦前のフ ランスを揺るがした大疑獄事件までが絡ん でいた。ナチスと結託する公安刑事が暗躍す るなか、二人の刑事は不屈の闘志で錯綜する 謎の迷宮を進んでゆく……。
●コメント
独自の繊細な感性で謎に迫るフランス人 刑事。彼を監視し、相棒として動くナチス・ ドイツの鬼刑事。蛮行と謀略が渦巻く占領下 のフランスで、犯罪に立ち向かう志を同じく する独仏の刑事コンビ――この発明が、本作 の成功につながりました。真実は隠蔽され、 正義は汚される異常な世界で、文字通り死を 賭して「刑事」としての本分を果たそうとす る二人。本書ではナチスに殲滅されんとする 小村を救うべく、彼らは疾走します。
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ビング・ウェスト 村上和久訳 文春文庫
『猟犬たちの山脈(上下)』
●内容紹介
コソボに駐留する米軍大尉がセルビア兵 に拉致された。政治的軋轢から、米軍は救出 行動を断念した。だが軍に背き、たった5人 で厳寒の敵地に潜入した男たちがいた―― 大尉の親友ラング率いる偵察部隊ペッパー ドッグズ。やがて敵は大尉の身代金を要求し てきた。期限まではあとわずかだ。援軍なき 雪中の追撃を強いられるペッパードッグズ の消耗は激しい。だが彼らは不屈の意志で進 みつづける。仲間を救い出すために――。
●コメント
自然の猛威と戦う意志と肉体。現在の「戦 争」のありようとテクノロジー。前者は正統 冒険小説の核心であり、後者はトム・クラン シーが切り開いた軍事スリラーの魅力です。 アンディ・マクナブやクリス・ライアンなど、 その両者を融合させたクランシー以降の軍 事冒険小説が、近年、生まれはじめています。 本書はそうした分野の新たなる収穫。ハイテ ク描写に過度に淫せず、戦う者の意志に焦点 をきりりと絞り込んだ緊密な大作です。
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ホセ・カルロス・ソモサ 風間賢二訳
『イデアの洞窟』
●内容紹介
古代ギリシア、アテネ。野犬に食い殺され たとおぼしき死体が発見された。だが「謎の 解読者」と異名をとるヘラクレスは死因に不 審を抱く。独自の捜査を開始した彼の前に 次々に現れる死体……というミステリ『イデ アの洞窟』を翻訳中の「わたし」は、テキス ト中に謎めいた象徴が頻出するのに気づく。 やがて「わたし」の身辺に怪事が起こりはじ め、ついに「わたし」は何者かに監禁され、 そこで翻訳続行を強いられる……
●コメント
本書の形式は破格です。本文で『イデアの 洞窟』なるミステリが進行するのと並行して、 それを訳す翻訳者の物語が訳注として同時 進行するのです。徐々に曖昧になってゆく虚 実の境界。やがて結末で訪れる驚天動地の真 実――。イギリス推理作家協会最優秀長篇賞 (ゴールドダガー)受賞の超絶ミステリ。小 社《本格ミステリ・マスターズ》を愛好され る読者におすすめできる逸品、ミステリ通の 折原一さんをも唸らせた作品なのです。
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グレッグ・ルッカ 佐々田雅子訳
『わが手に雨を』
●内容紹介
失意の底で帰郷したギタリスト、ミムを正 体不明の男が拉致した。ほどなく無傷で解放 されたミムだが、敵の悪辣な罠がやがて明ら かとなった――彼女を盗撮した写真がイン ターネット上にばらまかれたのだ。敵の素性 も目的も不明なまま、ミムは屈辱と恐怖の底 で震え続ける。だが敵が数少ない彼女の身内 にまで伸びてきたとき、ミムは反撃を決意し た。事件の根は苦痛に満ちた過去にある。困 難から逃げ続けてきた己の弱さと対峙し、い ますべてを清算しなければならない――
●コメント
グレッグ・ルッカは現在のハードボイルド を牽引する気鋭。そんなルッカがはじめて発 表したノンシリーズ作品が本書、己の名誉と 人生を取り戻すべく戦う孤独な女性の肖像 を力強く描いた力作です。ディック・フラン シスの諸作を思わせる敵の罠。過去との和解。 親子の再生。本書はスーパーヒーローの物語 ではなく、痛みも弱さも抱えた私たちの物語 なのです。苦闘の末に主人公がたどりついた 結末――静かな感動の余韻を玩味ください。
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ロビン・ホワイト 鎌田三平訳
『凍土の牙』
●内容紹介
シベリア僻地、厳寒の地。そこで発生した殺人。ソ連崩壊後の腐敗一掃を掲げて当選した同地の市長ノーヴィクは、人員不足ゆえ、問題の殺人の捜査の指揮をとる羽目になった。事件の根は凍土の彼方の米ロ合弁事業にある――暗躍するマフィア、謎めく陰謀。やがて敵の魔手は愛娘にまで。娘と町はわたしが守る。戦ってやろうじゃないか。固い決意を胸に、収容所帰りの相棒を道連れに、ノーヴィクは厳寒の敵地へ――!
●コメント
正統冒険小説の味わいを再び!『凍土の牙』はそういう作品です。不可解な殺人の謎を秘めた凍土の果て。志を果たせず鬱々とする中年市長が荒野で振るう勇気と意地。そこで噴出する昂揚は、巨視的な国際謀略や、冷たいハイテク描写では決して得られない、冒険小説独特の興奮にほかなりません。元チェチェン・ゲリラの老兵に陽気なヒコーキ乗り、美貌の動物学者など、気の利いた脇役も多数助演。へらず口のスパイスも見事に効いた、爽快な感動を誇る骨太冒険活劇。続篇『ICE CURTAIN』も近刊予定です。
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