中嶋博行「この国が忘れていた正義」本文より

 最新の犯罪白書(平成十八年度版)によれば、近年、一般刑法犯の再犯者率は増加傾向にあり、四割のラインにちかづきつつある。
 晴れて刑務所を満期出所した者のうち、五年以内にまた罪を犯して出戻ってくる再入所者も六割ちかい。
 この数字を見て「いや、半分くらいは立ち直っているのだから立派なものだ」などと寝ぼけてはいけない。わが国の刑務所は、毎日、毎日、犯罪者の更生改善だけを目標に巨額の税金と人的資源を費やしているのである。
 全国の刑務所に収容された囚人数は六万六千人で、他に未決拘禁者が一万一千人いる(平成十八年度版「犯罪白書」)。その面倒を看るために一万六千人の刑務官が公務員として雇われている。刑務官以外に事務職員もいるし、専門スタッフもそろっている。医療設備も自前だ。各刑務所には常勤や非常勤の医師がいて、横浜刑務所の場合、部長以下六名の医師が二十四時間体制で受刑者の診断にあたっている。現場からの報告では、囚人の診察要求や投薬要求には詐病(仮病)が多いらしい。が、法務省の行刑改革会議では、刑務所は医師不足であり、民間病院なみの給与を払っても常勤医師を増やすべきだという強力な意見がだされた。民間病院なみの給与がいくらなのか不明だが、最近、熊本刑務所が常勤医師を公募したときの給与条件は年額「一千万円超〜一千二百万円超」であった。医師への給与は当然、税金で支払われる。
 刑務所は犯罪者にバランスのいい食事をあたえ、適度な運動をさせ、教育や職業訓練をほどこし、専門技術を習得させて、おまけに医療や娯楽まで提供する。すべては犯罪者たちを更生改善させるためだ。これを更生プログラム(更生モデル)という。刑務所はいたれりつくせりの世話をするのである。
 こうした費用は全額、国の予算でまかなわれる。ひとりの犯罪者を更生させるために、いったいどれだけの税金がつかわれているのか?
 平成十八年度の矯正関係予算は総額二千二百億円、ここから囚人ひとりあたりの金額を割りだすと、収容費・作業費といった直接的な矯正費用だけで年額八十万円以上、これに人件費など官署費も入れると実に年額三百三十万円もの大金が投入されている。囚人ひとりに対して毎月二十八万円である。
 これだけ多額の血税を使って実施されている更生プログラムにかかわらず、再犯者率が四割ちかく、満期出所者の再入所が二人に一人以上というのはどうみても効率が悪い。「事業の成功」とは到底いいがたい。端的にいえば「大失敗の事業」である。国営刑務所だから漫然とつづけていられるが、これが民間事業であれば即刻打ちきりであろう。
 しかし、犯罪者「福祉型」社会を推進してきた人々は、行政各省・法曹界・刑事法学界・社会福祉など国の政策立案に影響力のある分野で相変わらず多数派を占めている。彼らは、悪党にセカンド・チャンスを与えればきっと立ち直るという「ちぎれかけた人権の旗」を高くかかげ、一歩も引くつもりはない。こうして毎年二千二百億円もの税金が再犯者であふれる刑務所予算(更生モデル)に消えていく。まさに、犯罪者に対する福祉予算である。