トップ本の話
酒屋に一里 本屋に三里

【第7回】
×月×日 渋谷で映画「モンドヴィーノ」。ワインビジネスの裏側をのぞくドキュメンタリー。カリフォルニア・ワインを世界に広めたロバート・モンダヴィや評論家のロバート・パーカーなどが出演している。世界のワイン業界が大きな転換期を迎えていることがわかる。
×月×日 銀座の「バニュルス」へ。いま絶好調のオザミグループの丸山宏人さんの店だが、すごい混雑。「カタラン バー」と謳うだけあって、コンセプトは、スペインのバルをイメージした立ち飲みの店。発泡ワインのカバや小皿のタパスが五百円から。タパスはまさに関西の「あて」という言葉がふさわしい。日本でも流行するのが、よくわかる。
×月×日 水戸からの帰り、銀座の「いまむら」。椀は「かき揚げ椀」。小さな芝海老のかき揚げと下ろし大根でみぞれ風に仕立てたもの。焼き物はカマスの祐庵とドンコの椎茸。いつ行っても、味にブレがないので、安穏に酒が飲める。
×月×日 紀宮清子内親王が、帝国ホテルで黒田慶樹さんと結婚式を挙げた。乾杯のシャンパーニュは、写真で見ただけだが、さすがドンペリニオンだった。「週刊文春」によると、紀宮さまは「お餅を生卵とかつおぶしで食べるのが好物」とのこと。友人たちが「焼いたお餅に生卵をつけるのですか」と尋ねたら、「お餅を焼くのですか?」と驚かれたよし。餅といえば搗(つ)き立てで、伸(の)し餅をご存知なかったらしい。「やんごとない」とは、こういうことをいうのだろう。
 早速試みる。電子レンジで伸し餅を搗き立て状にし、醤油を少し垂らした生卵と削ったカツオブシをまぶす。パリ在住の相原由美子さんからお土産にいただいたブルターニュ地方の海草入りバターを餅につけて食べる。柴田書店の木村真季さんから教えてもらった。うまい。「やんごとない」とは、対極の食べかただが。
×月×日 ボジョレー・ヌーボウの解禁日。昨年から、常磐線の車内でも売っている。一本二千四百円なり。有楽町の国際フォーラムの野外では、ボジョレー・ヌーボウ祭り。昨年から始まったらしい。紙コップ一杯が三百円。風もなく、街路樹も色づいて、「紅葉狩り」にはやや早いが、「お花見」気分。勤め帰りのサラリーマンや早くも頬を染めたオフィスレディたちで混雑していた。
 アルベール・ビショー社のエチケット(ラベル)は、ジミー大西のイラストを使用している。ポップな感覚が華やいだ新酒にうまくマッチしている。ボジョレー・ヌーボウは、ポップな秋のお祭りとして定着したといえる。
×月×日 田中真紀子元外相のエッセイ集『私の歳時記』(海竜社)を読む。三人の子供たちにお弁当を作る話など、賢き母親像が映し出される。夏休みに長岡の田舎で暮らした体験が利(き)いている。
×月×日 二子玉川の寿司屋「喜邑(きむら)」は開店間もないが、仕入れに工夫と執着が見られる。穴子は注文してから、焼くなり煮るなりする。青柳も、目の前で殻からはずす。お客が少ないから出来るのだ、といわれたらそれでお終いだけれども。カワハギのにぎりには、叩いた肝を載せる。これは最近の流行り。
×月×日 峯島正行さんの『さらば銀座文壇酒場』(青蛙房)の出版をお祝いして、数少なくなった文壇バーのひとつ、「コントアール」へ。青蛙房の岡本修一社長、元講談社の大村彦次郎氏、元徳間書店の布留川貞夫氏。
×月×日 講談社を来年定年になる「小説現代」元編集長の小田島雅和(季走)さんから、句集『だんだんみんなゐなくなる』(角川書店)が贈られてきた。結城昌治さんを囲んだ「くちなし句会」が今も続いているとは、知らなかった。結城さんの『白昼堂々』を担当したのは、入社間もなくのころだったから、もう四十年も前のことになる。
 寄鍋や歳月拾ひあふごとく  季走
×月×日 サトウサンペイさんから『栄養学のABC』(朝日新聞社)の恵投を受ける。カスピ海ヨーグルトを広めた家森幸男博士によると、日本食は塩分過剰なので、ビールの利尿作用でナトリウムの排出を工夫できる、とのこと。
 サンペイさんは、「長生きしたいわけではなく、死ぬまで長患いしたくないだけ」というが、これが難しいのですね。
×月×日 六本木のホテル「グランドハイアット東京」で、「田崎真也プロデュース 夢のボルドーディナー」。ボルドーから五十八のシャトーのオーナーたちが自社のワインとともに、大挙して来日した。ほとんどが95年と90年。抽選で私たちのテーブルに着いたのは、グラーヴのドメーヌ・ド・シュヴァリエとサンテミリオンのシャトー・フィジャックのオーナーだった。翌日は、それぞれ上海とソウルへ発つという。まさに世界のワインビジネスに立ち会っている感じで、なかなか席を立ちがたい、欣快なる興奮を得た。料理はボルドー風の、赤ワインを基調にしたソース。田崎さんのいう「ワインは調味料の一種」を実感する。
 耳に触りのいい「食育」などという言葉が大流行だが、歴史は古く、かの村井玄斎がすでに『食道楽』の中で使っている。「スローフード」なる言葉もそうだが、日本では、すぐに行政と企業が一体となって、金儲けのために飛びつく風潮がある。困ったことだ。
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