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第48回「ノスタルジーとリアリティ」
白状すると、始めから恩田陸のよい読者ではなかった。同世代の作家としても、ジャンルの垣根を超えて書きたいテーマを追求する姿勢にも共感していながら、彼女の書く登場人物たちが周囲にいる普通の人々と隔たりすぎているような気がして、とまどっていたのである。その隔たりはそのまま、恩田陸の考える「リアル」と私の「リアル」との差異でもあった。そうであっても、恩田作品を楽しむことはできる。かつて「奇妙な味の小説」と呼ばれた一群の作品や作家をむさぼり読んだ身として、『不安な童話』や『象と耳鳴り』(以上祥伝社)や『三月は深き紅の淵を』(講談社)には、意匠だけでも強く惹かれる。
そんなもったいない読み方を繰りかえすうち、ようやく(私にとっての)ベスト作品『夜のピクニック』(新潮社)に出会い、この人が考えるリアリティの構造のようなものがふいに頭に入ってきた。我ながら鈍いことだ。つまり、恩田陸のリアリティは、それぞれのジャンル(本格・ハードボイルド・ノワール……)の空気に合った、いかにもありそうな登場人物の造形なり性格がトップダウンに示されるのではなく、物語のときどきの状況に応じて登場人物たちがさりげなく漏らす感想や生活実感の積み重ねから、ボトムアップに形成されてゆくのである。たとえば「今年残る光景の中に、このススキが原は含まれているに違いない。(中略)この一瞬は、恐らく永遠なのだ」とか「脇目もふらず、誰よりも速く走って大人になるつもりだった自分が、一番のガキだったことを思い知らされたのだ」という感想は、まったく平凡ではないけれど、口にされてみると誰にでも覚えがある「忘れていた実感」だろう。
なにを今さら、とプロパーな恩田ファンには叱られそうだ。恩田陸はデビュー作からずっと、そうしたやり方を貫いているではないかと。読み返して見たらその通りだった。だが、どの作品にも必ずいる、歪んだ造形や極端な性格の登場人物に阻まれ、私の目がそこまで届かなかったのだ。そうした人物が登場しないことも、この作品に深い愛着を覚える一因かもしれない。実は、ここで描かれたような「夜のピクニック」を、四半世紀前にやったことがある。男友達六人だけの殺風景な、疲れるだけのイベントだったが、その印象は今日まで鮮明に残っている。「みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね」
そして恩田作品では、登場人物の過去と現在が、本人のそうした感想や生活実感の変化を通じて、ちゃんと一人の人間という連続体を形作っている。それは、たとえばハードボイルドで、登場人物の過去の「出来事」が現在の極端な性格や歪んだ願望のエクスキューズとして書き込まれるのとはまったく違う(私はそうした性格描写に、ほとんど「リアル」を感じない)。だから、成長期の少年少女を書かせると抜群にうまい。「ノスタルジーの魔術師」と呼ばれるゆえんである。
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