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読書エッセイ|本の水脈

最終回 レズを極める

 パリに留学中の友人から手紙が届いた。彼女は真っ黒なロングヘアが印象的で、スケベなパリジャンが放っておくはずもない、と思っていたら、勉学に専念するために、学生寮に入ったという。しかし、そこの寮長はトレビアーンなレズビエーンヌなのだそうだ。そのせいでおちおち夜も眠れぬのだという。外にパリジャン、内にレズビエーンヌ。なんという閉塞感!
 返信に「お姉様に開発されてこい」と書いて投函した。少しは慰めになっただろうか。帰国したとき殺されそうな気がするが。
 レズビエーンヌは何もフランス人だけの特権ではない。日本には日本の耽美がある。
 今月は上方有閑マダムの頽廃を独特の大阪弁で綴った傑作『卍』谷崎潤一郎(新潮文庫)でお届けする。
 今でこそ関西弁は、お笑いの言語として定着した感があるが、本来は艶っぽい言語なのではないだろうか。壮絶な倒錯物語が、まるで千代紙でくるんだような愛らしい語り口で提示される。
 主人公の園子は暇を持て余した若い主婦だ。女子技芸学校に通い始めるも、ゴシップ好きの校長から同性愛の疑いをかけられ、隣のクラスの光子を意識し始める。
 どうせなら仲よくなりましょ、とばかりに二人は急接近。それがやがて恋愛感情に発展していくことになる。
 透明でいてドロリとした二人の感情は、何か噎(む)せかえるような強い香りに満ちている。しかも甘くて濃い。読みながらちょうど女学生が溜まる餡蜜(あんみつ)屋の風景を思い出してしまった。
 この二人の関係は、同性愛というより、スキンシップが激しいだけという気もする。やることといえば、一緒に山へ登ったり、宝塚のファミリー温泉に行ったり、食事をしたりと他愛もない。
 同性間のスキンシップを忌むのは、キリスト教社会の習慣なのではないだろうか。アジアの国々では、同性同士が肩を組んだり、指を複雑に絡めて歩いたりしている風景をよく見かける。
 日本だってそうだ。高校生の頃、女子同士でトイレに誘い合う習慣を不思議に思っていた。まさか同じ便器の前後に向かい合って用を足しているのではあるまいな、と想像してややこしくなったことがある。どうやら一人が用を足すまで外で待つのだそうだ。まさかこれが同性愛的行動などとは誰も思わないだろう。
 アジアの女の子はマスコットが必要だ。自己を投影し、価値を共有する時期を経て女性になる。そのモラトリアム期へと退行したのが園子と光子だ。
 振り回されているのは男だけ。騒いでいるのは旦那だけ。


徳光光子 23歳 趣味:レズビエンヌ
楊柳観音ばりの容姿が自慢です。
男も女も枯れた奴も、こいつにかかればリビドー機関車になります。
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