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プロジェクトストーリー2016 文春のデジタル戦略

Number Web

今後、ウェブが主流になることは間違いない。
〝ワン&オンリー〟の「スポーツコラムサイト」であることの条件。

Number Web編集長 柚江 章

―― 2016年はスポーツに関する話題の多い1年でしたが、いかがでしたか。

柚江 リオデジャネイロオリンピックの特設サイトは好調でした。ページヴュー(PV)では、Number Webのサイトでオリンピック関連だけで900万PV(8月実績)、Yahoo!に配信している記事で8000万PV、スマートニュースで2000万~3000万PVも読まれました。なかでも面白かったのは、卓球日本代表の水谷隼選手の記事が一気に読まれたことです。もともとは雑誌の「Number」に4年も前に掲載された記事で、決して最新の記事というわけではありません。しかし内容が良ければ、ウェブ業界で〝ロングテール〟と呼ばれるような繰り返し読まれる記事になりうる。雑誌「Number」の良さが表れた一例だと思います。

―― 雑誌「Number」からの転載記事がメインになるのですか。

柚江 過去の雑誌掲載記事を転載することもありますが、2015年の夏に「Number」が有料の電子雑誌を出して以降、オリジナルコンテンツを配信しています。ウェブで記事を出すことの利点は、テーマや分量などの雑誌の誌面での制限がほとんどないことです。たとえば、欧州サッカーの記事を毎週アップすることもできますし、1日数本のペースで記事を出すことも可能です。隔週刊の「Number」をだいたい月に2冊出して記事総数が月数十本ぐらいですから、それを補完するに十分な本数とバリエーションの記事を読者に提供しています。
 ただ、無制限といっても、一般的にウェブでは長い記事は好まれません。ウェブ上のスポーツメディアでは1000字以内がふつうです。これに対して、Number Webの記事の長さは平均2000字前後。これは業界的にはちょっと異例の長さですが、読者のページ滞在時間は平均6分以上と、じっくり読んでいただいています。つまり、読者にとって読むに値する記事を提供できているのだと思います。

―― では、編集部の仕事は、オリジナル記事の編集が中心となるのですか。

柚江 そうですね。平日は、朝出社して、1日に数本単位で編集して配信します。雑誌の編集部でいうところの入稿(原稿を印刷所に送る)と校了が毎日あるというイメージです。試合やイベントは週末に行われることも多いので、必要に応じて土日に作業することもあります。
 雑誌の場合は、いったん刊行してしまうと、訂正などはすぐにはできませんが、ウェブ記事はノートパソコンさえあればどこでも訂正ができますので、記事の誤りやいわゆる〝炎上〟にはむしろすぐに対応しないといけません。家でも、旅先でも、判明次第すぐに対応できる態勢でいます。24時間365日、常に気が抜けないということはありますが、リアルタイムで反応が返ってくるウェブならではの面白さでもありますね。 サッカー、野球、NLB、ゴルフ、格闘技、競馬……多彩なジャンルのコラムを取り揃える。

―― 試合結果の速報やニュース記事も配信するのですか。

柚江 いえ、速報ニュースの配信はあえて行わず、読み物メインの「スポーツコラムサイト」です。そこが、ほかのスポーツメディアと競合しない〝ワン&オンリー〟のメディアだと自負しています。
 とはいえ、ほかのスポーツメディアはかなり意識しています。最近は紙媒体から発展したのではない、ウェブオリジンのメディアが、Yahoo! ニュースなどのニュースサイトに取り上げられることが増えています。そうしたメディアはとにかく配信が速くて、野球やサッカーの試合経過が数分後には更新されます。私たちは試合が行われた翌日の朝に記事を配信しているので、速報性では全く敵いません。
 でも、速ければいいということではないと思います。ウェブメディアには、無署名で、どのような取材を経て書かれたものか全く不明な記事が溢れています。記事の信用性もメディアとしての責任も担保されているとは言い難い〝勝手メディア〟にどう対抗するか。それが課題ですね。

―― 具体的にはどういった工夫をしていますか。

柚江 まずはNumberブランドに相応しい良質のコンテンツを作ることですね。スポーツ業界で仕事をする方々とのお付き合いを広げて、最もマッチした書き手に依頼することが基本です。これは雑誌編集者と同じです。
 その上で、ウェブの世界で求められる工夫をしています。たとえば、大事なのはタイトルです。雑誌であれば、内容をわかった上で読者は買ってくれますから、たとえば「慟哭」と一言だけのタイトルでも、写真やその他の記事情報とともに理解してもらえます。しかし、あらゆるジャンルの記事とともに膨大な文字列が並ぶネット上では、「慟哭」だけでは意味不明ですよね。タイトルだけで、何のスポーツに、誰が出ていて、何について話しているかを、スポーツにあまり興味がない人をも含めて伝えないといけない。Yahoo!トピックスの13文字、LINEのたった7文字ほどではありませんが、16文字×2行以内で考えていますから、長い名前のチームや選手だと、名前そのままでは出せません(笑)。

―― スポーツへの幅広い興味や知識などが求められそうですね……。

柚江 最初から詳しくなくても、やってみればなんとかなります(笑)。スポ魂とかありえないという人もたまにいますが、オリンピックくらいを楽しめるなら心配はいりません。全くスポーツに縁がなかった人でも、現場でアスリートに取材するうちに、半年もすれば好きなサッカーチームや応援したい選手が出てくるし、プライベートでも観戦に行くようになります。興味がわいてくるんですね。
 当たり前ですけど、社会人になって経験することはほとんどが初めてのことですから、そこで必要なのは柔軟性です。「小説しかやりたくない」ではどこに配属になっても続かない。小説が好きなら、スポーツをテーマに書いている作家のコラムを企画するとか、その部署でできることを工夫して欲しいですね。

「メディアとは何か?」を問い直す

―― 最後に、出版業界で今後ウェブはどうなるのか、展望を教えてください。

柚江 業界全体としては、将来的にデジタルコンテンツやウェブメディアが主流になることは間違いないでしょう。そうした流れを見越して、Number Webは2009年から自社運営を始めて、現在は完全オリジナルコンテンツを配信するまでにいたりましたが、最もインパクトが大きかったのがスマートフォンの利用者の拡大です。これまでは、パソコンでまずブラウザを立ち上げてからインターネット空間で情報を探していましたが、スマホでは、SNSを通じて得られる情報こそ信頼に足るものと判断されることが多いです。Facebookで友達が見た記事を読み、LINEで流れてきた情報を見るんです。私たちが広大だと認識していたネット空間が、スマホの中に縮んでしまったかのような印象になっています。新聞は読まない、テレビは見ない、いわんや雑誌なんて読まない。そういう時代にあって、次々と更新されるルールに柔軟に対応し、いかにマネタイズして生き残っていくか。パソコン時代とはまた全く異なる発想で臨まないといけないわけです。

―― 「では、どうすればいいんですか」と、志望者は聞きたがっています(笑)。

柚江 私たちも「どうすればいいと思う?」と学生さんに聞いています(笑)。新聞も出版も、旧来からあるメディアはみんな試行錯誤を続けていますが、結局のところ、「メディアとは何か」を根本から考え直すパラダイムシフトの時代を迎えているということでしょうね。文藝春秋は、これまで啓蒙的なスタンスで記事を発信してきましたが、それだけではなくて、これからは読者とのコミュニケーションを通じて、読者目線で情報を発信していく方向にシフトしていくのかなと思います。スポーツの記事を例にすれば、元選手の○○さんはこう言った、スポーツ評論家の○○さんはこう分析する、というような識者の解説よりも、一般の方がブログで発信している記事が受け入れられていくということです。
 一方で、誰が書いたのかわからない記事を増やせば、それはメディアとしての信用性やブランドを傷つけ、単なる安いメディアに自らを貶めてしまう恐れすらあります。「Number」というブランドはすでに文藝春秋だけのものではなく、たくさんの読者のものですから。ともすれば上から目線だったジャーナリズムの姿勢を見直しつつ、読む価値のある記事を作り続けること。ここを両立させることが、10年後、20年後に生き残るための大きな分岐点になると思いますね。 「Numberサポーターズクラブ」では、読者のニーズに合わせて記事配信や商品販売、イベントへの招待など、きめ細やかなサービスを目指している。

Number Web編集長柚江 章

1970年生まれ。94年入社。「週刊文春」編集部、「Sports Graphic Number」編集部などを経て、2016年より現職。

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