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時代を映す鏡(石田衣良)
 連作シリーズを読んでいると、とてもリラックスした気分になる。新しい物語に出会うたのしみと昔なじみの友人に再会するよろこび。本を読むたのしさが、新旧ふたつに分かれて、重なっているのだ。自分の部屋でくつろいでいるような雰囲気は、シリーズもの独特の読み味かもしれない。
 ぼくは子どものころから、連作が大好きだった。懐かしいところでは、海の男「ホーンブロワー」シリーズとか、「マフィアへの挑戦」とか、「死刑執行人」シリーズなどというのもあった。どれもB級読みもののおもしろさがたっぷりと詰まったシリーズである。今回の出来はよかった、前回はいまいちなどと、自分で点をつけられるのが、またシリーズ作品のうれしさである。
 日本ではなんといっても、池波正太郎の『鬼平犯科帳』と『剣客商売』が素晴らしかった。うまい日本蕎麦のようにいくらでもつるつると腹に収まっていく。何冊読んでも胸やけを起こすことがないのだ。あの仕上げのなめらかさには、どんな秘密があるのだろうか。最近もよく勉強のために読み直したりしている。
 そうして寝そべって文庫の山を崩していたぼくが、なぜか自分でもシリーズものを書き継ぐことになってしまった。『池袋ウエストゲートパーク』はデビュー作で、シリーズ化するつもりなどまったくなかったのにもかかわらず、である。
 それが文庫で早くも四冊、単行本のほうは今春の刊行分までふくめて六冊にもなってしまった。現代ものの場合、時代小説と違ってシリーズ化はむずかしいとよくいわれる。目のまえにある現実の制約がおおきいからだ。人間関係も時代小説のようにけなげで純粋というわけにはいかない。
 けれど、現代のシリーズものにしかできないこともまたあるのだ。時代の風を受けて、人や世相の変わっていく瞬間を描く。変わっていくものと変わらずに残るもの、その対比を描く。新しいテクノロジーや風俗、それが生きている人間にどんな影響を与えるのか、慎重かつ大胆に想像してみる。
 よく「池袋ウエストゲートパーク」の読者にいわれることがある。「よくそんなに物語の種が見つかりますね」。けれど、考えてみてもらいたい。ぼくたちはこの世界という無限にページのある本のなかで生きているのだ。そこから新しい題材を拾ってくることなど、いくらでもできるはずである。今日は昨日よりも一日新しい日なのだ。気もちも、風も、日ざしも、起きる事件も変わっていくだろう。時代の光りを映す鏡として、「池袋ウエストゲートパーク」のシリーズをまだまだ続けるのは、むずかしいことなんかではぜんぜんないのである。
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