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< 著者インタビュー >

成功しても、失敗しても


──テンポがよくて、明るくて、可愛らしさのある小説ですが、暗い部分というのもちゃんとあります。千晴がバイト先で知り合う海老沢良というフリーターの造型が秀逸ですね。三十を超えた、非常に屈折した男性です。また、社会への恐怖から、部屋に引きこもってしまう大学生も出てきます。こうした人物たちが立ちはだかることによって、楽しいだけではなく、深みのある作品になっています。比較的登場人物が前を向いて走っている小説なので、この二人が止まっていることによって、奥行きが増していますよね。

石田  ひきこもりに近い状態は、僕も学生時代に短期間ですが体験しましたので、彼らの心境が分かる部分があるんです。他の作品にも頻繁に登場しますし。フリーターに関しては、もし僕があのままどこの会社にも入らずにフリーターを続けていたら、こうなってしまったのかなあ、ということを考えながら書きました。

──彼が陰湿に、上司に理詰めで迫るところ、とてもリアルです。

石田  社会の中で自分がきちんと評価されていないと感じている人、居場所が見つかっていない人は、デリケートですからね。

──ところで、また、就職が厳しくなってきているようです。

石田  ええ。今年はまた大変です。しかし、新卒採用で正社員として入社しなきゃ絶対駄目なんだ、とは言いたくないですね。人生って分からないですから。

──小説の中の若者たちは「今が勝負! 今が勝負!」と合言葉のように言っていますけれど、石田さんご自身のお考えとしてはそうではないのですね。

石田  単純に生涯賃金で比べてしまえば、白黒つくのかもしれませんが、人間は簡単には測れないですからね。上でも、下でも、幸せはそれぞれあるし、それぞれの不幸もあるので。


小説は、自分というフィルターを通して見た世界


──新聞連載だった作品ですが、原稿はまとめて渡されたのですか。

石田  いや、違います。毎日毎日、ああ、もう間に合わない、もう間に合わない、と集中しながら書いていったんです。

──だから、あのスピード感なのでしょうか。

石田  余裕があると、リズムのよさは出ないかもしれません。

──石田さんは、どんな仕事でもスピードを大切にされますよね。何か迷った時でも、とりあえず前に進める。そのライブ感というのが仕事に、作品に、装丁に表れてくるから、とおっしゃったことがあります。

石田  仕事って、迷うのもいいんですが、スピード感やリズムが大切です。それが作品の切れ味につながるので。

──「池袋ウエストゲートパーク」シリーズではストリート系少年たちのサバイバルが描かれています。が、今回は、エリートというか、将来、マスコミでなくともホワイトカラーになるだろう、という若者たちが登場します。どちらが書きやすいですか。

石田  小説は自分の世界の中でつくるものなので、特に何が書きやすい、書きにくい、ということはないんです。自分の見られる部分で見て書いている。自分がフィルターみたいなものなんです。そこを通して見ると、残るものは残るし、残らないものはきれいに流れてしまう。自分というフィルターを通して映る世界を書いているんです。

──今回のヒロインの千晴は、とても等身大のヒロインで、一昔前の少女マンガの主人公を思い出しました。頑張り屋で、前向きで、容姿は普通なんだけれど、ピンチの時には助けてくれる男の子があらわれたり。

石田  可愛いですよね、彼女。でも、小説を書くときに、キャラクターをどう作ろう、というようなことは殆ど考えないんです。書いているうちに、そうなっちゃった、という感じなんです、いつも。

──すべて石田さんの中で自然に立ちあらわれてくるのですね。今回は登場人物たちが二十歳、二十一歳ということで非常に異性への興味が強い年頃の男女が出てきますが、あえてあまり恋愛方面にいきすぎないように注意してお書きになっている印象を受けました。

石田  そうですね。恋愛に踏み込んでしまうと、映画的に言えば尺を取られてしまうので、淡いものにとどめました。


読んで「もう一度就職活動したくなりました」


──今年七月に小社から刊行された『非正規レジスタンス』の表題作の中で「仕事は誰でも金のためにやる。だが、同時に自分でなくてはできないかけがえのなさや誇りがもてない仕事は、人をでたらめに深いところで傷つけるのだ」とマコトが言っています。石田さんは、就職活動中の若者にどんな言葉をかけたいですか。

石田  仕事のやりがいと収入のバランスをどうとるかという、難しい一歩を踏み出すのが、大人としての第一歩だと思うんです。だから、無理はしなくてもいいけれど、悔いのないように大学生活を送れればいいね、と言いたいです。

──作中の七人の就職活動の結果は、書き始める前から決まっていたんですか。

石田  ほぼ決まっていました。ヒロインに関してのみ、どうしようかな、とは思っていましたけど。

──幅広いファン層をお持ちですが、今回の小説は、どんな読者に一番読んで欲しいですか。

石田  今、迷っている人かなあ。かつての僕のように、皆と一緒に行動することとか、就職活動なんかすることに意味があるんだろうか、と、迷っている学生は沢山いると思うんですね。働き始めた若い人にも読んで欲しいし。

──マスコミ業界の人にも、ぜひ。少し初心に戻れるのではないでしょうか。この本を担当した校正者(女性、三十代)が、「もう一度就職活動したくなりました。あのヒリヒリした感じが懐かしいです」と言っていました。

石田  僕も、自分にとってはファンタジーの世界を書いていたので、とても楽しかった。成功しても、失敗しても、そういうことができること自体が何か楽しそうだなあ、と。なので、もちろん就職しなくてもいいけれど、チャンスがあるのだったら、新卒採用、チャレンジしてみるのも面白いのかな、とは思いますね。

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