林 お久しぶり。酒井さんの『負け犬の遠吠え』評判ですね。今日は勝ち犬ファッションで来てみました(笑)。
酒井 『野ばら』は連載中から愛読していました。
林 ありがとうございます。週刊文春の連載小説は『不機嫌な果実』以来なので、絶対同じことをやるのが嫌だったの。だからセックスとかあまり出てこない、清らかな女の子二人の話を書こうと思った。
酒井 『野ばら』の方が『不機嫌な果実』よりさらに怖かったですね。
林 あ、そうですか?
酒井 私は全然違う感じでグッと来ました。
林 ああいう女の子たちっていますよね。
酒井 います、います。「私たちって、ずうっと不幸にならないような気がしない?」という台詞(せりふ)、ああ、私も昔、こう思った瞬間、あったなあと思って。
ハワイに友達といって、レンタカーのオープンカーでドライブしている瞬間、すごく幸せだなあと思って。なんの悩みもないし、不満もないし、この幸せが永遠に続くんだろうなと思ったんですけど、一抹の不幸の種がそこに確実にあった(笑)。そこからたぶん崩壊が始まったんだと思っていたんですよ。
ところで、『野ばら』の二人の女の子は聖心ですか?
林 そうそう。だけど、萌(もえ)は絶対負け組に行くだろうな。千花(ちか)は適当にどこかの御曹司なんかとパッと結婚しちゃうかも。宝塚ってすごい勝ち組要員ですから。みんないいところにお嫁に行ってますよ。
酒井 じゃあ、ミュージカルの端役なんかにならないほうがいいわけですね。
林 絶対そう。萌は「ヴァンサンカン」みたいな女性誌のライターなんだけど、実際、ああいう雑誌って、聖心みたいなお嬢様大学を出た子たちが、人脈でライターやってるそうなんです。だから普通のライターの人を連れてきても、結束が堅くて入り込めないんですって。
でも今、純粋なお嬢様学校って、受験で人気低くなったんですって。菊川怜さんみたいな、お嬢様で頭がいいという人が出てきた。下から大学までのほほんときたお嬢様の価値がなくなって、偏差値にもそれがはっきり現れているみたい。
酒井 聖心、負け犬率が高いような気がするんですよね。
林 そう? 勝ち犬が多いように思うけど。
酒井 仲良しの子が幼稚園から聖心なんですけど、周り中結婚していなくて、独身率が高いと。今ってお嬢様であればあるほど辛いんじゃないかという気がするんです。親ががっちり「この人と結婚しなさい」ってお膳立てをすればいいけど、今はそういう時代でもないから、そうすると下手にお嬢様な分、手を出されにくいみたいなところがある。
林 ああ、なるほど。『負け犬の遠吠え』って、ずっと戦後五十年、女性が自立とか、働くという流れでやってきたのに、「でもね、結婚して子供がいないとねえ」と言われてしまう。この「でもね」の三文字がみんなの胸に響いてしまった。面白いですよね。
酒井 その聖心の友達は広告会社に勤めているんですが、なぜあなたが負け犬なの? という感じの存在なんです。でもやっぱり、就職の段階で普通に商社とかに入っていればよかったのに、変にそういう派手というか、面白そうな所に来ちゃったのがいけなかったんですね。萌もライターなんかにならないほうがよかったんですね。千花も宝塚に入らなければ、もっとよかったかもしれない。
林 そう、面白そうな人生を踏み出しちゃうと、辛いことが待っている可能性がね。でも萌は、親が離婚した段階で負け犬の遺伝子を受け継いじゃったのかも。萌のお母さんの桂子のモデル、私と同い年でいたんです。某財閥系のお嬢様で、学生結婚して離婚しちゃって、普通に働いている女性をイメージしました。
■歌舞伎好きで京都好き
林 連載中に歌舞伎を観にいくと、梨園の奥様方に「読んでますわ」「ああいう息子がいる方は大変だわ」なんて言われました。
酒井 歌舞伎のくだりは本当に面白かったです。それと京都。
林 御曹司はみんな結構遊んでいるみたいですよ。
酒井 路之介から誘われたら絶対いっちゃうでしょうね。一夜の思い出でもいいから。
林 有名人て、それ、あるんでしょうね。
酒井 路之介がつきあっていた京都の女の人、きわ子さん。やっぱりモデルがいるんですか。
林 話題の佳つ乃のバーに行ったの。それをちょっと思い出しているかも。歌舞伎の方たちにとって、花柳界の女の人たちと遊ぶのは普通みたいで、みんな繋がっちゃう。やっぱり特殊な世界ですよ。
酒井 歌舞伎好きなんです。確実にイヤ汁(*)出てると思いながらも、今年は新年の初日にも行っちゃいました。
林 負け犬の人が歌舞伎やオペラに行くのは、やっぱりそこらへんの独身とは違う、これだけ豊かな趣味を持っているから、結婚していなくたって惨めじゃない、ということを自然にやっているのかもしれない。
酒井 暇なんですよね。私も、京都もすごい好きですし、まさにイヤ汁出しまくり(笑)。『野ばら』は着物を選ぶシーンや京都の美味しいお店にいく場面があって、この裏にどれだけ元手がかかっているのかと……。
林 私、取材して小説を書くのってあまり好きじゃないんですよね。今の二十代の子が何考えているかわからないからといって、編集者に何人か集めてもらって座談会をするようになったらおしまい。自分が若いときの気持ちと、今の若い子をかいま見る空気が自分の中に蓄積していないと。
だけど今回、唯一、知りたいと思ったことがあってね。元芸者で本当に女の達人という人に、「どういうときに、この男は遊び慣れてるな、しかも着物を着た女を脱がせてるなって思う?」と聞いたら、「そりゃ、身八口(みやつくち)から指差し入れられたときよ」って。ここからすぐ胸を触れるというのが分かっている男はあまりいない。それを、二十五歳の路之介が知っている。そこで千花が悲しい気持ちになるんですね。ああいう小説って、ディテールが命だから。
酒井 いや、ほんとあれはリアリティーがあります。ゾクゾクゾクッ。
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