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『巨船ベラス・レトラス』をめぐる18のQ&A(筒井康隆)
筒井康隆氏
Q1 最新長篇小説『巨船ベラス・レトラス』をめぐってお尋ねしたいと思います。まず、タイトルの由来から教えていただけますか。
A1 「ベラス・レトラス」はスペイン語で「文学」または「純文学」の意味です。構想が固まってから、登場人物全員が乗る船の名前を何にしようかとあれこれ考えているうち、スペイン語の辞書でこの言葉を見つけました。
Q2 じつにさまざまな企みに充ちた作品で、どこからうかがったらよいか、おおいに戸惑ってしまいますが、まず、この作品の構想はいつごろ、どのようにして得られたのか、そのあたりを振り返りながらお話しいただけますか。
A2 ずいぶん昔に見た「愚者の船」という映画に触発され、いつかグランドホテル形式で書きたいと思っていて、その後現代文学の諸問題を書きたくなり、こういう形になりました。「愚者の船」の形式は『虚航船団』(一九八四年)の第一章でも使っていますから、これは『虚航船団』の文壇版とも言えます。
Q3 いわゆる「メタフィクション」として成立している作品で、この手法は筒井ファンにとっては馴染み深いものですが、筒井さんの小説は本作がはじめてという読者に向かって、「メタフィクション」とは何か、ご説明いただけますか。
A3 「メタフィクション」とは「フィクションを批評するフィクション」です。部分的には作中に作者が顔を出してあれやこれやと進行中の物語について口を出すものもそうですが、今では主に作品全体がメタフィクションになっているもの、つまり作品全体でフィクションに言及しているものを「メタフィクション」と言っています。アンドレ・ジッドの「贋金つくり」が最初の試みだと言われています。
Q4 『大いなる助走』(七九年)では文学賞をめぐって、『文学部唯野教授』(九〇年)では大学を舞台に文学理論をめぐって、いずれもスラップスティックな笑いのなかに文学への鋭い批評性をこめた作品でした。そして、『巨船ベラス・レトラス』では、ついに“文学の衰退”“文学の危機”がテーマです。このテーマにいま取り組もうと筒井さんに決意させたものは何でしょうか。
A4 決意というほどのものではありません。ただ、今やもう文学賞や文学理論について語っている時ではなくなってきました。文学そのものが多くの芸術ジャンルの中に埋没して、社会から忘れ去られようとしています。そうした現状を自分なりに確認する意味で書いた作品ですから、むしろこの内容に反発があり、さまざまな反論が出てくることを期待してもいます。「現状がわかっていない」「作者は現状を知らない」「衰退や危機の原因を間違えて捉えている」などの批判が出てくれば幸いです。自分でもそれを学びたいし、そうしたことを考えようとして書いた小説ですから。
Q5 小説はいくら書かれても、読まれないことには成立しません。若い読者が育っていないのではないかという不安はありますか。
A5 若い作者が育ってきている以上、若い読者だって育っているに違いありませんが、何しろ若い人の数が減ってきていますし、読書する人の数だって他の芸術ジャンルとの競合によって減ってきていることは確かです。それは何よりも小生の本の売れ行きの低下によってはっきりとわかります(笑)。これについては『巨船ベラス・レトラス』で詳細に論じています。
Q6 読書人口の減少とともに、読者の読む力が、質的にも量的にも衰えているのではないか、という印象はおもちではありませんか。どのようなときにそれを実感されますか。
A6 昔から大多数の読者はわかりやすくて面白い作品を歓迎してきました。今でもそうに違いありませんが、そうした作品をたくさん読んで、さらにその上のレベルの作品を読もうとする人はあきらかに少なくなってきています。そのレベルの他の芸術ジャンルの作品に眼を奪われたりして、次第に読書する時間を減らしていくからでしょう。これについても『巨船ベラス・レトラス』の中で詳細に論じています(笑)。
Q7 そうした傾向が文学のレベルを引き下げているのでしょうか。
A7 最先端の文学のレベルは維持されもし、新しい文学もスリリングに開拓されています。でもそれはごく一部のこととして社会的な話題にはなりません。昔からそうであったとも言えますが、でも以前は会社員をしていた小生の耳にも、新しい文学を話題にしている同僚の声が聞こえてきたものです。今ではもう「小説を読んでいる」どころか「本を読んでいる」というだけで敬遠されて、誰も近づいてこなくなる、という事態が学校を中心にあちこちで発生しているそうです(笑)。
Q8 そもそも小説を「読む」という行為にはある種のトレーニング、文学的体験なり文学修業が必要であるとお考えですか。
A8 トレーニングとか文学修業とか考えるのがそもそもおかしいわけで、本来は楽しみである筈です。その楽しみに深入りして、今なら「読書おたく」とでも言われるほどに深入りして、知らず知らずのうちに最先端のレベルの文学がすらすら読めるようになっていたというのが理想です。
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