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筒井康隆のすべてを知るための50問50答
いよいよ『ヘル』が刊行されました。「ヘル」という、悪い夢のようでもあり、死者の行く「あの世」でもありそうな不思議な世界で起こるさまざまの出来事を描いた作品です。どこまでが現実で、どこからが夢か、誰が生者か死者か、読んでいて頭が幻惑される、筒井さんの独擅場(どくせんじょう)とも言える傑作です。まずは、この新作をめぐっておうかがいします
Q1『ヘル』は筒井さんの何作目の作品になりますか。
A1 自称筒井康隆評論家の平石滋氏が作ったビブリオだと(あの、そういう人がいるんですよ)、五百六十八番目だそうです。長篇としては三十四番目になるそうで、ずいぶん書いたもんですな(笑)。
Q2 構想何カ月くらい、執筆何カ月くらいですか? 構想は何年とうかがうべきでしょうか?
A2 いやいや。長いこといい着想がなかったのでね、思いつくなり喜んで書きましたよ。もちろん無意識の中では熟成されつつあったんでしょうけどね。断片的には長いこと抱え込んでいたものも含まれていますし。
 それから執筆時間ですが、これは後半すべて文章を七五調にしたので、通常の三倍から五倍の時間がかかっています。それでも他の仕事をせずに書いたので、昨年の大晦日から今年の六月まで六カ月で書きました。
Q3 この作品を思いつかれるきっかけのようなものが何かあったのでしょうか。
A3 寝ていて、浮かんでくるいろんなアイディアを検討していて、ああ、これなら書けると。今までに書いたことのないテーマでしたからね。きっかけはわかりませんが、朝倉喬司さんの『こっそり読みたい禁断の日本語』の中に「地獄・極楽」という、覗きからくりの口上が載っていたので、それを読んだのが頭にあったと思いますが。
Q4「ヘル」というタイトルは最初から決まっていたんでしょうか?
A4 これはもう、着想するなり……、と、いうか、これ以外にないでしょう(笑)。「地獄」ではないからね。
Q5『ヘル』には、総勢三十人近い人物が登場し、しかも時間は徹底的に前後されています。登場人物表や年表のようなものを作ってから、お書きになるのですか?
A5 人名を単語登録しただけです(笑)。錯時法の方は、読者から見れば混乱しているようですが、作者としてはそれなりの正しい順序というものがありますのでね。年表は必要ありませんでした。
Q6 なかでも傑作は、トロッコの三少年です。不慮の事故で「ヘル」にやってきた可哀想な子供たちなのですが、彼らが七五調で語る事故の顛末(てんまつ)には思わず噴き出してしまいます。ここから小説は、だんだん七五調のリズムになっていきますが、これは最初からの予定ですか?
A6 実はトロッコのくだりは、あとからの挿入です。奈落のくだりと地下のクラブの責め場を書いていて、後半全部七五調で書いてやろうと思いついて、それで七五調を少し前倒ししたんです。子供を出したのは、罪のない子供でもヘルに来るということを強調したかったんですね。
Q7 こんな調子のいい文章が、よくもすらすらと作れるものと、ほとほと感心したのですが。
A7 だから、すらすらじゃありませんよ(笑)。ただ七五調にすればいいってもんじゃない。無理やり七五調にしただけじゃ読者は乗れませんからね。読んで自然のままの、通常の文章になって流れていなければ。だからこの部分は、故意に曲がりくねった文体にしようとする文学的なエクリチュールの逆をやっとるんです(笑)。
Q8 筒井さんは、文章の音の大切さを強調されてきました。『ヘル』でも、この七五調のリズムは、大きな役割を果たしているのでしょうか?
A8 そりゃもう、催眠効果で読者を乗せて、すんなり狂気に導こうというはっきりした意図があるわけですがね。他の作家があまりやってないし、おそらくやらないだろうし、だから他の作家にできないことをやったという評価があるかもしれないと思ってね(笑)。
Q9 筒井さんご自身は、子供の頃、地獄はどういう所だと思っていましたか。
A9 比較的早くから、そんなものあるわけないと思っていましたけど(笑)。
Q10 今まで小説、映画、絵画などで描かれた地獄の中で、「怖い」と思ったものはありますか。
A10 そりゃやっぱり、覗きからくりでしょう。縁日なんかで神社の境内でやってるのを見まして、なにしろ幼年期だから、いわゆる地獄極楽のスタンダードなイメージとして定着してます。
Q11『ヘル』の中で怖かったのは、悪夢のように同じことが繰り返し起こることでした。筒井さんは、地獄で罪人に科される刑罰のうち、想像しうる最も恐ろしいものは何だと思われますか?
A11 杵で搗(つ)かれたり、舌を抜かれたり、すべて嫌だけど、恐ろしいのは何をされても死なないことです(笑)。現実にあれやられたらすぐに死んじまうんだもんね。
Q12『ヘル』には天国は出て来ませんが、筒井さんの考える天国とはどういう場所でしょうか。
A12 天国にしろ極楽にしろ、実際に行ったとしてあんな面白くないところはない(笑)。「ヘル」の場合は煉獄みたいなもので、天国も組み込まれてますから、だからこそそこから先どこへ行くかは書いてないんです。消滅するのでないとすれば、ちょっと想像できない。
Q13「宗教心のない日本は、ヘルのようなもの」という言葉がでてきます。筒井さんご自身、現在の日本が「ヘル」=地獄のようなものではないか、とお考えなのですか?
A13 昔から、現世の苦しみが地獄と相似だという意味で「この世は地獄」という考え方はあったんでしょうが、今の現世の苦しみというのは昔と違ってきてるでしょう。時代時代で地獄もそれに相応(ふさわ)しい様相でなきゃね。
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