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<著者インタビュー>

弱者に厳しい社会への復讐

馳 星周(はせ せいしゅう  作家)  聞き手/「本の話」編集部
馳 星周さん

──新宿・歌舞伎町を舞台にした馳星周さんの新刊『9・11倶楽部』。その主人公、織田は救急救命士です。小説の主人公としては珍しい職業ですね。

  これは、読者にあきれられるかもしれないけれど、今アメリカのテレビドラマにはまってるんです。その中に「サード・ウォッチ」っていう、ニューヨーク市警とニューヨーク消防の人間群像ドラマがあって、これが異様に面白いんですよ。日本ではあまりうけてないみたいですけど。消防のなかに救命士がいて、救命って面白いなと思って、それがきっかけですね。アメリカの救命士って自分でかなりのことができるんですよ。たとえば強心剤を打ったり。ところが日本の救命士は、やれることが限られている。

──気管挿管(気道を確保する方法)が認められたのも最近ですね。以前、救命士がやると医師法違反になるのに、秋田市ではそれを知りながら日常的にやっていて問題になりました。だけど、心肺停止の患者の救命率が高いことがわかって、一定の条件のもとで許可されたんですね。

  法律が改正されて少しはやれるようになってきたけれど、日本の救命士は相当鬱憤(うっぷん)がたまっているだろうな、と。小説の主人公としては警官や消防隊員より面白いだろうと思いましたね。

──小説の中に、救急車をタクシー代わりに使っている人がいて、その人を搬送している間に、急患のところに行けなくて死なせてしまったという話が出てきますね。

  本当にあった話らしいですよ。俺はこれまで二回救急車に乗ったことがあるけれど、それでも呼んでいいものかなって迷いましたけどね。よく、そう簡単に呼べるもんだなって思いますよ。それが、若い人たちじゃなくて年配の人たちがやってるようで。若者のモラルハザードが叫ばれるけれど、今の日本は本当は大人のモラル崩壊でしょ、と思うんですよ。大体無茶なことをしてるのは中年以上だと思いますね。

──織田の行動の底流に地下鉄サリン事件があります。馳さんはこの事件をどのように受け止めているのでしょうか。

  日本社会の崩壊の象徴ですね。当時のオウム真理教の教徒が、お気軽に、お手軽に悟りを求めて、その中で起こした事件で、それに対する責任もあやふや。実行犯たちは麻原に命令されたからというけれど、中心にいた教祖の麻原が自分の言葉で、いったい何を考えていたのか説明していない。本当のところはグレーですね。

──この六月に事件から十三年たってやっと、オウム事件の被害者に救済法が成立しました。しかし、多くの日本人は過去のこととして、なかば忘れてしまっているのではないでしょうか。

  喉(のど)もと過ぎればでしょう。アメリカでは9・11の後、テロに対して今でも過敏な状態なのに、これだけ凶悪な犯罪を経験していながら、日本では一時地下鉄からゴミ箱が消えたくらいですからね。日本はオウムのような組織的なテロを起こしにくい国ではあると思うんだけれど、それに対する警戒とかないですよ。
  取材で都庁に行ったときも展望台にのぼるエレベーターの前で手荷物検査はあるけれど、形式的ですごく簡単、無防備でしたね。建ったのが平成三年、バブルの時代、サリン事件が起こる前ですから、そもそも、つくり自体がテロの可能性なんか考えていなかったんでしょう。


明確にあったモチーフ

──9・11のほうはどう感じられましたか。

  夜、ちょうど犬の散歩から帰ってきたら、女房が慌てふためいて、「大変大変、ヒコーキがツインタワーに突っ込んだの」というんで、てっきりセスナかなんかが事故でビルに衝突したと思ったんです。「馬鹿なパイロットがいるもんだね」「そうじゃないの」っていってたら、テレビに旅客機が突き刺さる映像がでて、それも二機目だっていうから、ああ、これは事故じゃないテロだなってわかりました。
  その後、ブッシュがアフガニスタンに侵攻したり、理由をつけてイラクを攻めて、世界が変わっていきましたけど、地下鉄サリン事件が日本社会の崩壊なら、これは世界秩序の崩壊かな、と思いましたね。

──実際に起こった出来事を、テーマにではなく登場人物の背景にもってきています。あまりに誰でも知っていることを小説の素材にするのは、難しいし勇気のいることではないですか。

  事件にもっと突っ込んでいくと、また別の小説になるし、別の書き方になるけれど、あくまで背景ですからね。この小説を書こうと思った一番の動機は、新宿浄化作戦。あれはばかげてると思ったわけですよ。新宿に固まっていたものをまわりに散らすだけですから。地下にも潜るだろうし、もっとわからなくなるでしょう。それと、日本の法律の不備で、いま問題になっているけど、日本で生まれた戸籍のない外国人の子どもたちが絶対いるだろう、と確信があって。この二つがモチーフになって、話が広がったところがあります。この子たちにテロをさせたいと思ったんですよ。そのテロというところからサリンと9・11がでてきました。だから俺の中では必然で、難しいということはないですね。
  「別册文藝春秋」に連載を依頼されたときに、すでにこうするというプロットは、はっきりありました。だから、頼まれて書いたというのではなく、自分でこれを書きたいというのが最初に明確にあったんですよ。新宿浄化作戦の頃からね。

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