第58回菊池寛賞受賞 NHKスペシャル単行本化

無縁社会

NHK「無縁社会プロジェクト」取材班

無縁社会 書影

  • 定価 :660円(税込)
  • 判型 :文庫判

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はじめに

“どうしてこんな死に方をしなければならないのか?”取材班に、悲しみとも、怒りともいえる感情が高まっていくのを感じた。
辞書で「無縁」という言葉を引くと、「縁がないこと」「関係がないこと」と書かれている。
取材班は、ひとりきりで生きている人たちの取材も進め、誰とも「縁がない」「関係がない」と思っている人が実に数多くいることにも驚かされた。家族の代わりに死後の手続きをするNPOには、高齢者だけでなく五十代の人たちも押し掛けていた。大手企業を定年退職した男性や“おひとりさま”の女性などもいる。ひとりきりで人生の最期を迎える不安が想像以上に広がっていたのだ。

こうして取材した事実は、二〇一〇年一月三十一日、NHKスペシャル「無縁社会~“無縁死”3万2千人の衝撃~」として放送された。さらに全国のNHKの記者やディレクターなどからも提案を集め、家族や地域、会社でつながりが薄れるなかで起きている「働き盛りのひきこもり」や「児童放置」、「呼び寄せ高齢者」などの問題を、NHKのニュース番組、「ニュースウォッチ9」や「おはよう日本」のシリーズで伝えた。視聴者からも反響があり、意外なことにネット上には三十代、四十代の比較的若い世代からも、「私も無縁死するかも」という数多くの書き込みがあった。そして、一連の報道を終え、取材班はそれぞれの部署に戻った。

その後の七月下旬、NHK放送センター二階の報道局に新たなニュースが飛び込んできた。
「東京・足立区で都内最高齢の男性、百十一歳のミイラ化した遺体が見つかった」
警視庁担当のキャップからの“消えた高齢者”の一報だった。
この事件を契機に全国で三百五十人にのぼる高齢者の所在不明が相次いで発覚。親の死後も家族が年金を不正に受け取り続けているケースも多かった。警視庁担当を始め、社会部や首都圏担当の記者やディレクターらと取材班を再結成、総がかりで取材を進めた。
“家族がいるのに高齢者が所在不明になってしまう”
“介護が必要な高齢者と仕事のない息子が親子そろって社会から孤立してしまう”
より深刻な現実が浮かび上がってきた。

イメージ写真

「無縁社会」
それは戦後六十五年が過ぎ、高度成長やバブルの時代を経て、成熟社会を迎えたといわれるいまの日本で、まさに現実に起きていることである。さらに日本社会は二十年後、ひとりで暮らす単身世帯が全世帯の四〇%近くに達する時代を迎えるという。
「無縁社会」を乗り越えていくことは、実に複雑に問題が絡み合っていて容易なことではない。地縁や血縁、社縁で固く結ばれていたかつての社会に戻れば良いのか? それとも新たなつながりをつくる方法があるのか? 今も取材は続いている。

本書は、記者やディレクター、カメラマンなどが「無縁死」した人々やひとりきりで生きる人々の人生を取材した記録である。番組やニュースでは放送できなかった部分も数多くあり、当時の取材メモをもとに改めて構成した。一人でも多くの人に手に取って読んで頂ければと切に願っている。
無縁社会について考えることは、いまの日本、そして、あすの日本を変えることにつながると思うからである。

NHK報道局「あすの日本プロジェクト」デスク
中嶋太一

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