桜庭一樹

「伏をめぐる小説と絵の世界」

桜庭一樹

1971年島根県生れ。99年作家デビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。近著に『製鉄天使』『道徳という名の少年』

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鴻池

週刊誌連載では物語は中世から始まって江戸に進んでいきましたが、単行本では時代の順序を入れ替えているのですね。

桜庭

最初はまず森のイメージがあったんです。連載のときは森、つまり単行本だと「贋作・里見八犬伝」の章ですが、そこから始まってだんだん時代が進んでいくと、犬と人の間に生まれたものの子孫が伏という生き物になって、江戸時代になるというイメージだったんですが、そうするとなかなか書き進められなかったんです。最初に書いた森の部分を作中作として中にいれて、江戸から始まるようにしたら話がよくまとまったんですね。映画の「ブレードランナー」が好きだったので、「ブレードランナー」のハンターに追われて逃げるレプリカントのイメージを江戸にもってきて、伏姫と八房(やつふさ)の子孫も、レプリカントのように追いかけられてハンターと戦い、最後はみんな捕まってしまうと。そこに最終的に持っていきたかったので、江戸から始まって、過去の話に入るというように変えたんですけれども、なかなか大変でした。

鴻池

何が大変だったんですか?

桜庭

構成ですね。大きな絵を描くときも、ミクロとマクロ、全体の構成と細かなところの両方を見て描かなければならないと思うんですけど、小説もやはりひとつの大きな絵のようなものじゃないかと思っていて、全体の構成を遠くで俯瞰しつつも、近くでは一つ一つの細かいところを書く。細かいものは連載中に書けたんですけれど、全体の構成を、単行本用に俯瞰してやり直したので、一度離れて全体を見るという作業が大変でした。最後まで書き終わらないとできないですし。鴻池さんには、毎週二点ずつ挿絵をお描き頂きましたが、いかがでしたか。

鴻池

毎週締め切りがあって、そのたびに絵を取りにこられるのは勘弁してと思って、一ヶ月分ごそっと渡していました。桜庭さんの原稿が早かったので、そういう意味では楽で、編集部から送られてくるゲラの、四週分の絵のレイアウトスペースに一気に描いて全体の流れを見て、今週はこれだとすれば、来週は違ったふうにしようというのができたんです。

桜庭

一枚描くのに時間ってどれくらいかかるんですか。

鴻池

いつもは大きな絵を描いているので、この週刊誌のサイズの絵というのは、ラフスケッチだったりアイデア出しくらいのものなんです。これくらいのサイズは自分でもあっという間に描けたというのが、今回一番面白かったですね。大きな絵を描いているときはわからなかったんですけれども、トレーニングされていたんだなと思いました。

桜庭

聞いた話なんですが、ものすごく原稿の遅い作家さんの連載の場合、画家さんが先の展開を察して絵を描くとか。

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