清涼院流水
対談:清涼院流水×水野俊哉
英語の話をもう少し続けますが、僕は先日、カナダ人漫画家のカイ・チェンバレンと合同公式サイト「bbbcircle」を起ち上げまして、これも英語圏での可能性を探る目的があるんです。僕の小説はアジアでは翻訳されていているんですが、小説にしてもビジネス書にしても、日本の作家は、ほとんど北米市場には打って出られていない。優れたコンテンツがたくさんあるのになぜなのかと考えると、単に言語の壁の問題だと思うんです。そこを何とかしたくて、公式サイトを親友のカナダ人と起ち上げたり、今度の「水野流水」の「成功ブック」にも最初から英訳をつけて出版するという戦略を今から練っています。数年以内に英語で小説を書く具体的な計画もあります。
英語についてはそのぐらいで、ビジネスマンが必ず読む小説に司馬遼太郎がありますよね。一つには古典として評価が定まっているということがありますが、何より登場人物の生死や運命に惹きつけられるんだと思うんです。強いやつが必ず生き残るとは限らない、では最後まで生き残るために何が必要か、それを学ぶためにビジネスマンは司馬遼太郎を読む。人生の逆境にどう立ち向かうか、運命についてどう考えればよいかというメッセージを、僕も『コズミック・ゼロ』には込めたつもりです。実際、誰が生き残れるのかというのが作品の一つの焦点ですから、司馬作品が好きな人は、まったく同じ文脈で『コズミック・ゼロ』も読めると思います。水野さんもおっしゃったように、人間の生き死や無常観、運命論などのテーマは小説もビジネス書も同じですから、ビジネスマンもそういう読み方で小説を読むのは有効だと思います。そういう読み方にも耐え得る小説を現代の作家も作っていかなければいけない、それは我々作家全員の責任だと思いますね。
逆に、ビジネス書で成功を収めた著者たちが、いま、次々に小説を書こうとしていますよね。
これまで文芸の世界ではかっこ悪いとかタブーのように思われてきたことも、変わってきつつありますね。
今がまさに過渡期で、時代が劇変しつつあるんだと思います。文芸に限らず、出版界全体の流れです。
もっと言ってしまえば、これはジャンルではなく個人の問題なんですね。すべての世界・ジャンルにおいて個人がどう生きるのかということが問われはじめた気さえします。
今この対談を読んでくださっている方の多くはきっとキョトンとなさっているでしょうが、五年後に読み返した時、この二人が言っていたことはけっこう正しかったなと思っていただけるのではないかと思います。
読者だけでなく、書き手の中にもこれからどうしようかと思っている人にとっては、この対談はものすごいヒントになる可能性がありますよ。ヒントを与えたからには、我々二人で、先に答えを提示できるようにがんばりましょう。