対談:清涼院流水×水野俊哉

 

[ 第3回 ] 小説・ビジネス書・英語本

清涼院

英語の話をもう少し続けますが、僕は先日、カナダ人漫画家のカイ・チェンバレンと合同公式サイト「bbbcircle」を起ち上げまして、これも英語圏での可能性を探る目的があるんです。僕の小説はアジアでは翻訳されていているんですが、小説にしてもビジネス書にしても、日本の作家は、ほとんど北米市場には打って出られていない。優れたコンテンツがたくさんあるのになぜなのかと考えると、単に言語の壁の問題だと思うんです。そこを何とかしたくて、公式サイトを親友のカナダ人と起ち上げたり、今度の「水野流水」の「成功ブック」にも最初から英訳をつけて出版するという戦略を今から練っています。数年以内に英語で小説を書く具体的な計画もあります。
英語についてはそのぐらいで、ビジネスマンが必ず読む小説に司馬遼太郎がありますよね。一つには古典として評価が定まっているということがありますが、何より登場人物の生死や運命に惹きつけられるんだと思うんです。強いやつが必ず生き残るとは限らない、では最後まで生き残るために何が必要か、それを学ぶためにビジネスマンは司馬遼太郎を読む。人生の逆境にどう立ち向かうか、運命についてどう考えればよいかというメッセージを、僕も『コズミック・ゼロ』には込めたつもりです。実際、誰が生き残れるのかというのが作品の一つの焦点ですから、司馬作品が好きな人は、まったく同じ文脈で『コズミック・ゼロ』も読めると思います。水野さんもおっしゃったように、人間の生き死や無常観、運命論などのテーマは小説もビジネス書も同じですから、ビジネスマンもそういう読み方で小説を読むのは有効だと思います。そういう読み方にも耐え得る小説を現代の作家も作っていかなければいけない、それは我々作家全員の責任だと思いますね。

水野
著者が若くなってきたということもあって、ビジネス書の世界ではエンターテイメント化ということを著者も読者も意識し始めています。新しい形式も許されるような状況になりつつあるので、ビジネスマンが喜ぶような要素を色濃く入れたミステリーというのも十分成立すると思いますね。
清涼院

逆に、ビジネス書で成功を収めた著者たちが、いま、次々に小説を書こうとしていますよね。

水野
そうなると、ここまで話してきたような文芸とビジネス書の壁はなくなっていくでしょうね。
清涼院
ぼく個人としては単純に嬉しい状況なんですが、小説家の立場で言うなら危機感もあるわけです。よそから大量に参入してきてマーケットを取られたら、小説家はヤバイよと言いたいですね。すでに『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』の山田真哉さんが小説でどんどんヒットを飛ばしていますし、ああいう方が次々に出てきたら、小説家は全員失業ですよ。ビジネス書の著者たちは売れることに貪欲ですからね。たとえば、勝間さんなどは「書く努力よりも売る努力を十倍する」と公言してらっしゃいますし。
水野

これまで文芸の世界ではかっこ悪いとかタブーのように思われてきたことも、変わってきつつありますね。

清涼院

今がまさに過渡期で、時代が劇変しつつあるんだと思います。文芸に限らず、出版界全体の流れです。

水野

もっと言ってしまえば、これはジャンルではなく個人の問題なんですね。すべての世界・ジャンルにおいて個人がどう生きるのかということが問われはじめた気さえします。

清涼院

今この対談を読んでくださっている方の多くはきっとキョトンとなさっているでしょうが、五年後に読み返した時、この二人が言っていたことはけっこう正しかったなと思っていただけるのではないかと思います。

水野

読者だけでなく、書き手の中にもこれからどうしようかと思っている人にとっては、この対談はものすごいヒントになる可能性がありますよ。ヒントを与えたからには、我々二人で、先に答えを提示できるようにがんばりましょう。