居酒屋おくのほそ道:メニュー

太田和彦さん写真

第九回 鶴岡第九回 鶴岡

 日本でいちばん予約のとれないレストランとなった、山形県のイタリア料理「アル・ケッチァーノ」のおかげで、山形庄内の豊かな食材も有名になった。その魚や野菜を存分に味わえるのが鶴岡の「いな舟」だ。名人板前の伊藤さんは「素材がおいしいから何もしない」と謙遜するが、とんでもない。季節に刻々とかわる魚や野菜の旬をつかまえ最高の調理をほどこす。これは同時に、春の孟宗汁・山菜、夏のだだちゃ豆・岩牡蠣・民田茄子、秋の口細カレイ・温海かぶ、冬のどんがら汁など、鶴岡の生んだ作家・藤沢周平の小説に登場する料理を味わうことでもある。鶴岡ではここだ。
 文武学問の町・鶴岡は飲み屋街というものはなく、酒を飲むなら隣りの、商の町・酒田がいい。おすすめは江戸創業の老舗酒屋が店の平土間でやっている「久村の酒場」だ。細長い重箱のようなカウンターは天板ガラスごしに下のいろいろな小皿の肴が見え、好きなものをとって食べる。それ以外も料理豊富で、チヂミや手づくりコロッケもたいへんうまい。大廊下に置いた畳の小机に座り、池の鯉を眺めながらの一杯もじつによさそうだ。
 ひとつ裏通りの「井筒」(電話0234-24-1422)は、家族でも安心できる料理屋で、季節刺身のほか、春(孟宗汁)、夏(くじら汁)、冬(どんがら汁/納豆汁)と、季節の汁ものが楽しい。
 バーはもどって鶴岡。「南蛮居酒屋89(やぐ)」はおそらく日本現役最高齢の女性バーテンダー矢口さんが元気にシェイカーを振る。おすすめ第一は、これを出すバーはここだけと思われるカクテル「スカイボール」、通称「冷ゃっこいの」だ。空き時間につくる千代紙八角の小箱をおみやげにもらえるかもしれない。もう一軒「バーChic(シック)」(電話0235-22-4958)は若い女性客の多い正統派バーで、オールバック髪形のマスターがいいカクテルをつくる。そこから独立した「バーBRUT(ブリュット)」は女性バーテンダー斎藤さんの店。美人だが柔道二段なので気をつけよ。
 日本どこにも居酒屋、バーはある。次回にもご期待くだされ。

今回訪れたお店


芭蕉名句選