居酒屋おくのほそ道:メニュー

太田和彦さん写真

第十一回 富山第十一回 富山

「富山の薬売り」像
「富山の薬売り」像
 背に壁のような立山連峰、前に富山湾の富山市は、立山の伏流水により水がよく、その水が地酒を良くし、断崖状に深い富山湾の底へ流入する冷水がダイナミックに海水を動かして魚の味を良くする。
 冬の今はブリの最盛期。富山でブリは別格で、暮正月の歳取り魚として、どんなに高価でも、これがなくては年が明けない。刺身、ブリ大根に、おすすめはブリのしゃぶしゃぶ。大きな薄切りをさっと昆布の熱湯にくぐらすと瞬時に白くなり、ぽん酢が最高だ。
 富山で忘れてならないのは「昆布〆」だ。北前船の運ぶ北海道の昆布と富山湾の魚で、日本一の昆布〆王国になった。カレイ、ヒラメなど白身魚はもちろん、赤身のカジキ、ホタルイカ、鶏笹身、蕗など野菜まで何でも昆布で〆め、総菜売場には色んな昆布〆がつねに並ぶ。
 発光するホタルイカは富山湾で捕れ、漁期は春のみと限られるが、その沖漬はつねにある。またイカ墨を使う塩辛「黒作り」も酒には最高だ。
 「黒」と言えば「富山ブラック」、日本一しょっぱい富山ラーメンは老舗「大喜」が戦後、肉体労働者向けに、汁でご飯が食べられるように作ったものだ。醤油濃度ものすごいラーメンは、まあ一度お試しあれ。
 富山の人は、よく勉強し、家族を大切にする堅実な県民性で、居酒屋はどこも良心的だ。駅前の「親爺」は戦前から続く名酒場。今の若親父は三代目、二代目親父もとても元気だ。頑固親父だった先代を継いだ「あら川」は、近くに新店「米清」を開店。「あら川」は家族や大勢さん、「米清」は炭火焼きでじっくり一杯に向いている。
 駅前の「シネマ食堂街」は二階が映画館(現在閉館)、一階が木造アーケード屋根の一杯飲み屋街で、この雰囲気も捨て難い。またバーも「白馬館」「ジェリコの戦い」「天使のわけまえ」と充実。富山は酒も、魚も、人情も最高の町だ。ぜひ訪ねよう。オミヤゲはもちろん「鱒寿司」でキマリだ。

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