居酒屋おくのほそ道:メニュー

太田和彦さん写真

第十二回 金沢第十二回 金沢

長町武家屋敷跡
長町武家屋敷跡
 加賀百万石の町、金沢は東西の茶屋街にはさまれて料理文化が栄え、通人は京都を避けて金沢に来るといわれた。手の込んだ工芸品のような料理を豪華な器に盛る加賀料理は料亭料理。それゆえ気楽な居酒屋は少なく、赤提灯派は金沢では店探しにやや苦労する。
 片町の「浜長」は料亭の構えながらロングカウンターがあり、入ってしまえば案外気楽だ。カウンターに立つ主人の采配のもと、白調理着の若手はきびきびとよく訓練され気持ちがよい。魚、野菜、お椀などの季節のお通しはこれぞ加賀料理。女性ならずとも目を見張る。それをつまみながら、小黒板の本日の素材・料理から品定めするのはたいへん楽しみだ。品書きに値段はないが、大食大飲の私がこれだけの料理でこの値段と、つねに喜び驚くと書いておこう。
 大衆酒場ならば、新天地の「大関」がおすすめだ。こちらもロングカウンターで気楽に金沢の時季の刺身(川魚がいい)や、加賀野菜、治部煮などを楽しめる。名物「だし巻玉子」はとても大きく3人で1つでよいくらいだ。玄関に座って迎える主人は御歳100歳を超え、生き神様のようだ。家族経営の温かさにこちらの心も温かくなる大好きな店。
 もう一軒、香林坊の小さく気の利いたモダンな「酒房 猩猩」をすすめたい。北陸地酒に力を入れ、肴もこのところグンと充実し、若い客に人気だ。大学の多い金沢は芸術系もふくめ、じつは学生の町で、その若々しさがいい。
 さらに金沢は「おでん」の町。「赤玉」「菊一」「おでん 高砂」など、創業を昭和初期にさかのぼる老舗がいくつもあり、それぞれの味をつくっている。おでんの気楽さで気軽に入れ、ついでに刺身や塩辛などで一杯は、毎日でも通える楽しさ。旅行者には案外この方が、旅の面白さがあるかもしれない。
 そうして忘れてならないのがバーだ。最も古い「ゴールドスター」をはじめ、「倫敦屋酒場」「BARSPOON」「ロブロイ」「広坂ハイボール」などが個性と技を競う。
 赤提灯派は苦労する、なんて書いたが全然苦労ナシでした。金沢はとてもよいところです。

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