田一枚植えて立ち去る柳かな
(たいちまい うえてたちさる やなぎかな)
日光を発った芭蕉と曽良は那須岳のふもとに広がる荒野を貫こうとしたが、くたびれ果てあやうく道に迷うところを、草刈りをしていた農夫に救われた。江戸を発って11日。はるばる離れた心地がしたのではないか。
ようやくたどり着いた那須黒羽(栃木県大田原市)では、有力者の歓待を受けて14日間も長逗留した。平家物語の若武者・那須与一にゆかりの八幡宮に詣でるなど、充分に英気を養ったようである。
いよいよ奥州への第一歩、白河の関を越える前に訪ねたのが、西行が歌に詠み、後には謡曲でも知られた「遊行柳」である。
道のべに清水ながるる柳かげ しばしとてこそ立ちとまりつれ (新古今)
漂泊の歌人・西行は、生涯に二度、奥州へと旅している。その西行を慕う芭蕉だが、同じ地に立っても歌ぶりは異なっている。
田一枚植えて立ち去る柳かな
西行は涼やかな木陰にゆったりと体を休めた。芭蕉もそうであったはずなのに、あたかも「一睡の夢」の如し。句の力点は「去る」ことにある。
時間の経過を「田一枚を植える」という行為をもって簡潔に描写した芭蕉の眼は、もはや旅の行く手に注がれていた。
それも、無理はない。
あこがれの地、遥かなる奥州への道が、間近に迫っているのだから。
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遊行柳
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遊行柳
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句碑
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