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――以前のインタビューで、こんど伊良部モノをやるとすれば職業編みたいなものかな、とおっしゃっていましたが、前作『イン・ザ・プール』と比較してみて、今回の『空中ブランコ』はこういうところを変えてみたというのはありますか。
奥田 シチュエーションを変えるのは、目先を変えるというか、バリエーションを考えてですけれど、どんな職業にもいろいろな悩みがあるだろうし、悩んでいる人ってみんな同類だと思うんですよ。政治家でも野球選手でも弁護士でも、みんな一緒。神経症になる人はなるし、ならない職業なんてないわけですから。それぞれの世界の大変さとか、どこも一緒なんだよというのを書きたかったんです。
――特にお気に入りの一篇は。
奥田 それは「女流作家」じゃないかな。
――あれは、ご自身の実体験も反映しているのでしょうか。
奥田 そうですね。僕が想像していたより文壇の世界の人たちってまともであり、野心的な人も多いことにびっくりした。小説家なんて、はぐれ者ばかりだろうと思っていたから(笑)。この作品にモデルはいるのですか、と何人かに聞かれました。
――精神科医の伊良部の性格は、ご自身の中で憧れのようなものはあるのでしょうか。ああいう人間だったら楽だろうな、という。
奥田 なりたいとは思わないけど、そばにいたら面白いだろうな、と。決していつもそばにいたいとは思わないけど、こいつがいる限り世の中は大丈夫だろうみたいな(笑)。組織ってどこでもそうですけど、変な奴が一人二人まじっていると、なんか楽になるんですよ。全員切れ者だと、ギスギスして毎日ひりひりしちゃう。
――普通ああいう物語だと、医者のほうが主人公になることが多いと思うのですが、患者が主人公というのも視点が変わって面白いところですね。
奥田 患者の視点で伊良部を見ようかな、ということです。伊良部の視点なんかちょっと想像できない(笑)。患者はみんな僕自身なんですよ。僕の中にある煩悩とか、嫉妬心とかね、そういったものを伊良部に向かってわーっと吐き出しているところはあると思います。誰かにこう言ってもらいたい、楽にしてくれよ、と。
――以前に、短篇と長篇を比べると、短篇を書くときはユーモア物を書く方向に流れる傾向が強いとおっしゃっていました。短篇と長篇、あるいは『空中ブランコ』のようなユーモア物と『最悪』『邪魔』などのシリアス物とでは、書くときのスタンスはご自身の中で変わるものですか。
奥田 いや、それはないですね。僕は人間の滑稽さを描くことをずっとしてきているのですけど、たぶんほうっておくとユーモアに走るんです。あまり深刻に物事を考えるのが好きじゃないんですね。問題作とか衝撃作って苦手なんです。踏み込むのが文学だと思っている人はいるでしょうけど、だとしたら僕には文学は必要ない。踏み込んで解決するならいいですが、解決しないんだから、楽に考えることを探ったほうがいい。伊良部シリーズなどはまさにそうですよね。シリアスに描こうと思えば、ものすごくシリアスな問題ばかりなんですよ。患者はみんな、仕事や生活がかかっている人たちなんだから。それをシリアスに考えたら解決するのかというと、しないわけですよね。だったら軽く生きる知恵みたいなものを考えたほうがいいんじゃないかな、と思いますけどね。『最悪』も『邪魔』も日常の小さなことを扱っているだけで、大問題というのは扱っていない。近くで見るから悲劇なんであって、遠くから見ると喜劇なんです。そういう両方の視点を持って自分は描いているつもりです。
――伊良部シリーズを、ことさら滑稽に見せようとしているわけではない。
奥田 ないですね。
――では実際の読者の反応はどうですか。
奥田 いつまでも『最悪』や『邪魔』の路線を求めてくる人はいますね。編集者にもいますよ。そろそろ、とか。じゃあ、今やっているのはなんだと、ムッとするんですが(笑)。全部まとめて僕という作家だから、片方だけというのはありえないです。でも、伊良部シリーズってファンが多いですよ。伊良部先生に診(み)てもらいたいという人もいたりして。
――次にまた目線を少し変えて伊良部シリーズを書くとすれば、何かプランはありますか。
奥田 実際に起きた事件とか社会問題の当事者が伊良部のところに行くとかね。BSE問題で追い詰められている牛丼チェーンの店長さんが伊良部のところに会いに行くとか。 |
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