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自著を語る

岡山発、歌舞伎町経由アジア行き(岩井志麻子)
――新作『恋愛詐欺師』に収録された作品は、平成十三年から十五年にかけて「オール讀物」に発表されたものです(一篇のみ「別册文藝春秋」掲載)。十三年というと、岩井さんはデビュー作『ぼっけえ、きょうてえ』(第六回日本ホラー小説大賞、第十三回山本周五郎賞受賞)以来の岡山を舞台にしたホラー小説を書かれていた時期だと思うのですが、この本の収録作品はほとんど都会が舞台で、内容もホラー風の作品もありますが、必ずしもそれにこだわってはいません。新境地に挑んだという感じでしょうか。
岩井 こうして一冊にまとまったのを見て、自分にもこんな小説が書けたんだなと思いました。それまでは、おどろおどろしい舞台がないと、自分には小説が書けないんじゃないかという気がしていたんですが、そこいらを歩いているような普通の人の話も書けるんだなと。でも、わたしが書くとやっぱりみんな嫌な話になってしまうんです(笑)。
 わたしはホラー大賞を取る前は、売れない少女小説作家でした。「オール讀物」に書き始めた頃は、邪悪な少女小説というコンセプトで始めたんです。わたしなりの成熟した少女小説という感じで、書き終えてみると、ああこんなふうに進化するものだったんだなあと、自分なりに納得しました。

――主人公は年齢にはややばらつきがありますが、すべて二十代から三十代の女性ですね。
岩井 そうですね。完全にわたし自身ではないけれど、いろいろな面で自分が反映されているのは確かです。どの主人公も、自分から幸せになりたくない女ばかり。それはわたし自身がそうだからなんです。どういうわけか、昔からわたしには幸せになりたいという願望があまりない。この本に「華やぐ末路」という短篇が入ってますけど、その主人公みたいな生活を、自分は望んでいるんじゃないかという気がします。嫌な夫と貧乏なみじめったらしい暮らしをして、こそこそと浮気相手と逢引しているというような、陰鬱な中にちょっとだけ楽しみがあるという暮らしが、一番自分の性格に合っているんじゃないかと。でも、じつはその浮気相手の男のこともそんなに好きじゃないんです。浮気しているという事実自体がいいというか、後ろめたい恋愛が好きなんですね。
 だから、この先も幸せになりたいとか、落ち着きたいという気持ちはまったくないですね。ガツガツしながら年をとって、ギラギラしたエロばあさんになりたい。いつまでも枯れないで、まわりから、「いやね、あの人」って顰蹙(ひんしゅく)を買うようなエロばばあになって、東南アジアで孫くらいの美少年たちに看取られながら死んでいくというのが理想です。

――東南アジアといえば、この本にもベトナムを舞台にした「悦楽越南物語」という作品が入っていますね。
岩井 あの頃はベトナムに嵌(はま)ってたからなぁ(笑)。
――平成十四年に同じくベトナムを舞台にした『チャイ・コイ』で、第二回婦人公論文芸賞を受賞されました。
岩井 これは自分の中では転機になった作品ですね。というか、このあといつの間にかわたし、愛と性の人になっちゃった(笑)。「悦楽越南物語」はその後日談的作品です。

■ベトナムと韓国の恋人

――年下のベトナム人の恋人との関係を赤裸々に描いた作品ですが、現在は韓国にも恋人がいらっしゃるそうで、最近は月の半分以上を海外で過ごされてますね。
岩井 うちは先祖代々岡山で、たぶんわたしには岡山以外の血は流れていないと思うんですが、どういうわけか海外に出て行ってしまうんですね。だけど、エリアはアジア限定で、むかし日本が植民地にしていた地域に限ります(笑)。
――岩井さんにとってアジアの魅力とは何でしょう?
岩井 きっと古き良き日本を探しているんじゃないですか。貧乏で、男が威張っていていい国というような。それに、相手の男をモデルにして書いても、ぜったい文句を言ってこないというのもいいですね。彼らは日本語を読めないし、たとえテレビでしゃべったって、ホーチミン市では映りませんから(笑)。
 わたしはいま、V君とL君というのをホーチミンとソウルに用意してるんですが(笑)、じつは両方の町に一人ずつ、精神的な浮気相手も用意しているんです。その二人というのは、どちらも女なんですよ。

――それはどういうことでしょう?(笑)
岩井 いや、わたし自身、そっちの嗜好はないと思ってたんですけど、ホーチミンでもソウルでも、プラトニックな恋人は女性なんです。ホーチミンのほうはマッサージ嬢なんですが、向こうのマッサージ嬢というのは風俗すれすれで、普通のマッサージももちろんやってくれるのですが、別料金で別のこともしてくれるんです。お客もマッサージだけで帰る人もいれば、そっち目当てで来るのもいる。
――女の客というのは?
岩井 皆無ですね。わたしだけですよ、そんなところに行ってるのは。V君と一緒に行っているうちにお気に入りの子ができてしまって、ミータンちゃんっていうんですが、とても可愛くて男あしらいが上手い。わたしにも終わったあとで髪の毛を梳(す)いてくれたり、着替えるのを手伝ってくれたり、つたない英語だけど一生懸命会話しようとする、すごく水商売に向いているタイプです。でも、本当は田舎から出てきて、親兄弟に送金するために頑張ってるんじゃないかとか勝手に想像して、ミータンちゃんなら騙されてもいいやという気になってくる(笑)。
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