

街路にたむろしていた少年たちが火災に見舞われ、一人が死亡する事件が起きた。目撃者証言によれば、焼死した少年の後頭部が突然発火し始めたという。特別な熱源のない場所で、なぜそのような現象が起きたのか。一部で囁かれる、プラズマによる自然発火説の実現の可能性を確認するため、警視庁捜査一課の草薙俊平は母校・帝都大学工学部物理学科で教鞭をとる、かつての学友・湯川助教授を訪ねた。彼の提示する驚くべき仮説とは?
中学生がひょうたん池から引き上げた物体は、失踪した柿本進一の顔を写し取ったアルミニウム製のデスマスクだった。池を捜索した警察は柿本の他殺体を発見するが、わざわざ死に顔から型を取った犯人の動機を量りかね、捜査は混乱する。そのころ草薙刑事は、柿本と多額の金のやりとりをしていた人物に疑いの眼差しを向けていた。しかし鉄壁のアリバイが容疑者を護っているのだ。謎を解く鍵は、湯川 学の行う驚異の物理実験にある。
女は、ある男に殺意を抱いていた。彼女を思慕するもう一人の男が女の前に現れ、絶対に露見しない殺人方法があると伝えた……。今回取り上げられるのは、スーパーマーケットを経営する高崎邦夫という男が、自宅の浴室内で奇妙な死に方をしたという謎だ。死因は心臓麻痺だが、高崎の死体は右胸の一部の細胞だけが完全に壊死した状態だったのだ。事件の関係者を観察した湯川は一目でその職業を見抜き、草薙刑事に捜査の糸口を与える。
海岸で謎の爆発が起き、ビーチマット上で休憩していた女性が命を奪われた。帝都大学工学部出身のエンジニアが撲殺死体として発見された。一見なんの関係もない二つの事件が、一点で結びつく。エンジニア殺人事件を捜査中の草薙刑事から情報を得た湯川は、自ら事件の現場を巡り謎解きのための手がかりを集めるが……。珍しく湯川 学が草薙刑事に先行して単独行動をとり、現場を飛び回る。研究者の矜持に触れた幕切れも鮮やかな一篇だ。
二十七歳の長塚多恵子が自室で他殺体として発見されたとき、捜査陣の面々は誰もが痴情絡みの犯行を疑った。予想通り、ある保険会社員が容疑者として身柄を拘束される。だが意外な人物が現れて、彼が殺人現場から離れた場所にいたという証言を行った。驚いたことにその証人は子供で、高熱に浮かされて幽体離脱をし、その場面を目撃したというのだ。幽体離脱なるものが本当にあるのか確かめろと草薙刑事に迫られ、湯川 学しぶしぶ出陣。
自分の持っている理系の知識を駆使して小説を書いてみたいと思っていた。それを実行したのが本作品。登場する科学知識はすべて既存のものだが、一般の人には馴染みが少ないだろう。理論的には可能だが、実行可能かどうかは検証していない。当たり前である。検証するには人を殺さねばならない。文系の人には意味不明なところも多いだろうし、理系の人間だって、自分の専門外のところはよくわからないかもしれない。それでもストーリーを楽しめるように書いたつもりである。
(『たぶん最後の御挨拶』(文藝春秋)Ⅱ.自作解説より)