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松本清張賞作品募集

石田衣良
いしだいら 1960年生まれ。97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。03年『4TEEN』で直木賞受賞

――石田さんが数々の選考委員を経験された中で、すごく記憶に残っている例はありますか?

石田   いいほうでは、やっぱり湊かなえさんかな。『告白』はよかったですよね。すごく毒がありましたから。あとは、幻冬舎でやったときの久保寺健彦さんの『みなさん、さようなら』とか。久保寺さんも馬力があり、この人は大丈夫そうだな、というのはありました。あとバリバリ書いている人は、結城充考さん、中路啓太さん、加藤元さん、吉野万理子さん……。あれ、けっこういますね。選考委員はもう六十回ぐらいやりましたが、『告白』はそのうちの唯一、最大のヒットです。それでいいんですよ。読者の人には分かりにくいことかもしれないけど、文学賞って、お金もかかるし、手間もかかる。出版社にとってはすごくコストがかかるけど、それでも「いい人はいないか?」と必死で探しているわけです。だから、傾向と対策でどうにかなる、というようなものではないということを、そこはみんなに覚えておいてほしいですね。自分で本当にドアを蹴破って入ってくる人、窓がなかったら窓をつくれる人、そういう人しかデビュー後、生き残れないと思う。プロは、新人賞よりさらに厳しいですから。

桜庭    やっぱり人真似をしないということかな。すごいインパクトのある受賞者がいると、次の年は似た傾向の作品がどうしても集まってしまうということがあります。ある程度は読んで、どういう賞かは分かっていないといけないけれども、過去の受賞作をなぞらないということがすごく大事かなと思いますね。

石田   引っかき回すようなつもりで、全然別なものをぶつけてきてくれるほうが強い。そうすると、新鮮さがすごく大きな魅力に見えてくる。それと若い人、作家志望の人全般に言えることなんですけど、ちょっとおとなしいですよ。「こんなふうに書いてみたんですけど、どうですか?」という感じが多い。お手紙のような感じ。

桜庭   何を読んでこれを書くに至ったか、バックグラウンドが浅くて分かっちゃうみたいなものもあります。最近売れている、流行っている作家さんのだけ読んで、とか。

石田   ほんとそのとおりなんだけど……僕が『池袋ウエストゲートパーク』を書いたとき、ちょっと文体をカッコよくしないとダメだなと思って、そのときたまたまアンドリュー・ヴァクスを読んでいたので、パラパラッとめくって、ああ、ヴァクスね、ちょろいじゃん! とか思いながら書いていました(笑)。でもそれは、ヴァクスだけだったら、絶対ダメなんです。

桜庭   そういう話をすると、じゃ、これ一冊を読んで書いたんだ、と思ってしまう人もいるかもしれない。そうじゃなくて、時間と手間をかけて、いろんなものを煮込んでスープを作りました、みたいなことじゃないですか。

石田   そう。ほんとに、圧倒的に本を読まないといけないと思う。

桜庭   ミステリーでも、若い人だと京極夏彦さんが一番古くて、それ以前のは読んでいません、といったことをときどき聞いたりする。前にも言ったことがあるんですけど、影響を受けて、この作家みたいになりたいな、と思ったら、その人の作品だけを読むんじゃなくて、その人をつくったものをたどる。例えばエッセーとか、書評集とかを出していらっしゃる方であれば、「こういうものを読んで、この作品が生まれたんだ」と、その人の血筋をたどるというか、バックグラウンドまで読むのがいいと思います。

――お二人の文学的バックボーンというか、作家としてのベースをつくったものについて、少しお話しいただきたいのですが。

桜庭   私は子供の頃に、子供用の『世界名作全集』から始まって、あとは図書館にある大人向けの全集を、自分では買えないので読んでいた。世界文学の影響はすごくあるなあと思う。そのあたりがバックグラウンドになり、あとは日本のミステリーを読み始め、海外のミステリーやSF、ジャンル小説に行って……少女マンガもたくさん読みました。

石田   僕もやっぱり最初は図書館の児童室。SF、ミステリー、ファンタジーなどを読んで、それから現代小説、海外文学と手を伸ばしていったので、ほぼ変わらないんじゃないかな。もうね、どんなものでも一回溺れてほしいんですよ。

桜庭   溺れていく感が薄いと伸びづらいかも。冷静に読まず、すごくかぶれておかしくなった経験も大事だと思います。私、最近、十代の頃に好きだったものを読み返したりすると、あっ、これの影響だった、みたいに気づいていなかったことを発見したりするんです。だから、実は書いていくときに影響を受けるものって、十代、二十代で読んだものが大きいですね。

若い人だから書けること

桜庭   私、作家の読み方って、編集者や書評家とは違いますね、と言われたことがあるんです。自分だったらどう書いたかな、という見方をしていると言われて。たしかに、どうやって書いたか分からない小説にはすごく惹かれる。おそらく何らかのバックグラウンドがあって、何かをしようとしている、でも何だろう? わからない、みたいなのがあると、やっぱりグッと来ます。

石田   そうですね。今の時代を見て、自分にとってほんとに感動するもの、素晴らしいもの、カッコいいものは何だろう? って、考えてほしいですね。それを小説の中だけで探さないほうがいい。ある人の生き方であったり、動物とかでもいいんです。この動物がカッコいい! と言って、動物が主役の短篇とか応募してきたら、こちらはエッ! と思いますからね(笑)。

桜庭   本気でそう信じている人が書いたものは、一生懸命読みますよね。

石田   小説って、書き始めて本になるのが一年半とか、二年後ですから、今あるものではなくて、自分の体や心全体でつかんで、「ほんとに面白いんだ、これが」というものを書くのがいい。それで二年後ぐらいにちょうど流行りが来るものなんです。あと、もうちょっと感動したほうがよくないですか。ただうまい文章だったり、ある設定が淡々と続くようなものではなくて、一瞬でいいから、物語が進んでいく中でガーン! と感動するような場面も入れてほしい。抑えて抑えて、それでも耐えきれずに何か弾けるような瞬間とか、そういうのを読みたいですね。

桜庭   私はあと、一人になることって大事じゃないかなあと思います。サークル的な仲間といると、楽しいですよね。小説でも、仲間内だけの文法では認められるんだけど、その外には行かないような、そういう付き合いもあるんじゃないかと感じていて。でも、それって、初めてその小説を読んだ人には分からないし、仲間内だけの価値観で、そこに未知の読者はいない。同じ価値観の者同士が集まって「そうだよね、そうだよね」って肯定し合う確認作業をしていると、小さくなってしまう。仲間から離れたところで、人と違うものを読んだり、違うことをしたりするほうがいいんじゃないかなと思うときはあります。

石田   いつも思うのは、今はやっぱり情報があまりに多いということなんですよ。情報が多いと、みんな一番安全なところに集中するんです。グーグルでパッとどんなことでも調べられるんですが、最初のページしか見ないでしょう。これだけ情報が多くなって、誰もがいろんなものにアクセスできるのに、みんな同じものだけを見て面白いと言っている。そこを突き破らないと難しいですよね。


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